チリのサンホセ郊外のコピア鉱山で落盤事故が起きたのは、8月5日にことである。この報道は大きくはなかったが、その後33名が避難所で生存していることが解って以来、鉱夫たちの救出までは世界の目を引き付けるにの十分な事件になった。33名の救出は奇跡的であり、美談として後世に語られることに異存は ない。
彼ら33名全員の救出を巡っては、ピニェラ大統領が前面に出てきた。彼はこの救出劇を存分に演出し、政治的に大いに利用した。支持率はここの間30%以上も上がり、建設大臣にいたっては80%にも跳ね上がっていた。大統領にとっては、めぐみの落盤事故である。
鉱山の安全性や責任問題などは全く問題になることなどなかった。鉱夫たちのこれまで置かれていた労働条件も同じである。救出現場やサンホセなどでは、チリの国旗を翻らせてナショナリズムをかきたたせていた。
坑道を塞がれた零細なコピアポ鉱山は、この事故によって閉山することになった。救出劇の主役の33名には、世界のマスコミが動いている。早速出版の話はあったが、どうやら映画にもなるようでである。生活の一変した33名ではあるが、大忙しである。
この鉱山の残りの300名の従業員は、閉山で行くあてもなくなった。救出作業に当たっては大統領ではなく、実質的に主役を演じた人たちである。失業して露頭に迷っている。生死を彷徨った人たちとの落差は悲惨である。彼らこそこれから救済されるべきではないか。