高峰秀子が亡くなった。彼女は戦後日本の銀幕を飾った、まぎれもない大女優である。数多くの名作で多くの主役を演じながら、引退をきっぱり宣言した後は、 あらゆる俗世間のものを断ち、立つ鳥跡を濁すことなく去って行った。人間としても、見事な生き方である。
2年ほど前に、別海9条の会で「二十四の瞳」を上演した。この過疎の町で、百人もの観客が集まった。壷井栄の原作が優れていることももちろんある。木下恵介の脚本の素晴らしさもあったことであろう。幼いころ見た記憶があり、その後田中裕子たちによるリメイク版やアニメも見たが、50年経ってみた 木下恵介監督の高峰秀子の、大石先生がピカ一である。
白黒作品で2時間40分もの間、小学生を含め立つ人が一人もいなかったのである。作品中で歌われる童謡は、ほとんどが3番まで歌われていた。当時の背景の中、若々しさとベテランになった教師を見事に演じ切っていた高峰秀子に驚かされた。
戦前の子役時代も含め、数多くの監督に恵まれたもの大きい。成瀬巳喜男で「浮雲」「喜びも悲しみも幾歳月」など、小津安次郎「宗方姉妹」、豊田二郎の「雁」など、夫松山善三の「名もなく貧しく美しく」など、稲垣浩の「無法松の一生」、増村保造の「華岡青洲の妻」、その他今井正、山本薩夫、小林正樹、五所平之助と、名だたる監督はことごとく彼女を使っている。
引退後は、エッセイストとしてきっぱりした表現で、多くの本を出している。自らの自画像を全て寄付したのは、一昨年だったろうか。トロフィーなどあらゆる表彰されたものは、寄付や廃棄をしている。華やいだ人生を、見事に括って最期を迎えている。彼女を作品の中と本だけで評価して、ご冥福を祈りたい。