昨年日本とオランダの共同研究で、鳥インフルエンザウイルスH5N1の一部遺伝子に変異をさせたウイルスを、哺乳類であるフェレットに感染させた。すると非接触的に次々と感染が広がったのである。
これは、鳥インフルエンザでも人間も含む哺乳類に、パンデミックが起きることを、図らずも証明したことになる。
この研究論文は、サイエンスに昨年11月号に掲載されるはずであった。これにアメリカ政府が、バイオセキュリティーに関する委員会の申告を受けて、待ったをかけたのである。この研究が、テロリストにわたっては大変なことになるというのである。
こうして政治の介入に反発した研究者たちが、世界で一斉に60日間鳥インフルエンザの研究を一時停止させたのである。
こうした研究については今後の在り方を論議する必要があると、この冷静期間はそれなりに有効であったようである。アメリカ政府の研究機関もこれに同調した。
研究内容の公表に反論する意見は、研究が制限を受けることへの懸念である。こうした研究の発展は、ワクチン製造に極めて大きな意味を持つからである。また、自然界でも起きる可能性も否定できない。十分な対応のためにも続けるべきであるというのである。
反論者は、テロリストなどにこうした研究成果が利用される危険性を、指摘している。実際、日本で起きたオーム真理教は、炭疽菌をばら撒いたが、毒性が低い株だったことが幸いしたのである。彼らがこうした成果を手に入れていれば、どれほど被害が広がったかわからない。
こうしたことを受けて、WHOは2月19日に専門家を集めて協議することになった。恐らく、研究成果の一部を非公表するようになるか、発表する機関や組織を限定してしまうことになりそうである。
しかし、科学にとって研究成果を危惧されえるために、研究そのものが制限されるのは大きな問題である。核開発がそのいい例である。アインシュタインをはじめとする、科学者たちが研究成果を悪用されることに危惧はしたが、研究そのものに制限を加えることには、賛成する者はいなかった。
これは古くて新しい問題である。