安倍首相は、10年で農家所得を倍にすると大見得を切っている。その本体は、農業の流通への参入(6次化)と大規模化である。輸出も奨励しているが、それらを攻める農業と呼ぶのである。食料生産としての、農業の本質がここで語られることはない。
大規模にすることで生産効率を上げてきたのが工業である。手作業を機械の発達で、大量に生産してコストダウンをして商品を市場に供給してきた。靴や服を好みに合わせて、大量に多様な商品を生産して、人々を満足させてきた。
ところが農業の生産効率は、太陽と土壌の力と水によって支配されている。少ない人数で大量に作付はできるが、生産の効率が向上するわけでない。生産効率が上がったと人を見誤らせたのは、品種改良と化学肥料や農薬それに、灌漑の技術である。
さらに機械の導入によって、労働者当りの生産量は上がったが、農業の本質的部分のエネルギーとなる炭水化物やたんぱく質の生産量はさほど上がらず、相変わらずお天気次第なのである。
農業の大規模化には、機械の導入が欠かせない。規模に応じてそれは大きくしなければならない。金額もそれに応じて上がる。
私の専門である、酪農に関して言えば、政府が推奨する規模にするには、約1億円がかかる。それも牛舎とその周辺施設に限ってである。フリーストール牛舎にして、ミルキングパーラーにすると、1億円にもなるのである。
生産量は増えるし、労働効率は上がる。しかし、負債を返さなければならない。この数年、経営不振の離農よりこうした過剰投資による破たんする農家が増えている。周辺産業が盛んに、規模拡大を推奨するからである。
農家は生産のコストダウンにはお金がかかることを、返済する時になって気が付くのである。規模拡大は農業にとって矛盾する行為であることが少なくない。