安倍首相は17日、東京都内で講演し、農林水産業の強化や民間投資の拡大などを柱とする成長戦略第2弾を発表した。農業分野では、生産から加工、流通までを担う「6次産業化」を進めて農業・農村全体の所得を10年間で倍増させると言うのである。首相は実現に向け、自身を本部長とする政府の「農林水産業・地域の活力創造本部」を来週新設すると述べた。
10年間で倍増は、池田勇人の「所得倍増計画」を真似たものである。日本の農業が極めて歪になったのは、1961年(昭和36年)の、農業基本法の設定からである。農家の息子の、河野一郎農林大臣は激怒した。都会に出た農民の土地を、残った農民がもらうという筋書きに、「そんなことは起こるわけがない。農民は土地を手離さない」と言ったが、その通りになった。多くの農民は、兼業になったのである。
兼業の小農が生き残れたのは、外で小銭を稼いだからではない。農外所得はほとんど、機械化した農業に投資したからである。小農はロスが少なく、農業の生産効率がいいからである。
日本中の農家を取材して現在就農している友人が何度も言う言葉である。「企業が参入して成功した農業をみたことがない」というのである。マスコミなどが盛んに取り上げ報道するが、はじめだけのことが多い。やがて、撤退することになる企業が圧倒的である。
アベノミックスの、3本目の矢は農業の所得倍増である。何度もこのブログで書いたが、食糧の自給率を上げることと無縁のことである。攻めの農業と名付けられているが、お金儲けの話である。食料の質も量も関係ない。
そのお金儲けであるが、中身は大きくすることと6次産業化である。輸出などは全く農業生産とは関係ない話である。今月号の「農業と経済」で、林芳正農水大臣と生源寺眞一名古屋大教授の会談が掲載されている。内容は結局は、民主党政権の批判とその転換であり、つまりは大型化と6次化への話ばかりである。
民主党政権下でも、生源寺眞一氏はアドバイスをしていたが、会談を見る限りカメレオンのような学者であることが判る。攻めの農業は、若者を呼び戻すフレイズにはなるかもしれないし、周辺産業が潤うことにもなるであろう。一時でなくするためには、持続的政策が求められる。
大型化に企業の参入と農地の集中を図るとのことであるが、これはかなり困難であり、濃音の現実を無視した政策であると言える。誰もついてきないばかりか、企業が放棄するのは見え見えである。
農業にとって最も重要な政策は、長期的視点を持ち持続的であることである。他産業に比べて、農業は生産に時間がかかかり、時の気候に左右されることがあり、短期的な視点から政策を組まれたらたまったものではない。
日本の農業が衰退しているのは、政治家の時どきの思い付きによって、振り回されてきたからである。6次産業化で、市場を10年間で10兆円にすると、安倍はぶち上げた。どうみても食糧や農村のことを正確に分析した上でのこととは思えない。思いつきの域を出ていない。農村はこうして振り回され、人がいなくなった。そのいい例が生産調整である。