私が最も敬愛する人物の一人、佐賀県の農民作家の山下惣一さんが亡くなられた。主に月刊誌「地上」掲載をまとめた遺作となった最新著の「農の明日へ」(創森社刊)を通じて、最期まで日本農業への警鐘と指針を示されていた。
山下さんは中学を卒業すると、当時の後継者が誰もがするように、国の新たな指針に沿って、畑をミカン畑に変えた。さて収穫する数年後に国の新たな方針ですべて伐採することになった。ミカンを植えるのも伐採するのも国が金を出したが、強制される日本農政に疑問を持つきっかけになったという。
その後、1961年の農業基本法によって農業は金によって計算、評価されるようになり、20年後の前川レポートが決定的に農産物の輸入が促進された。農業過保護や貿易摩擦の原因とされ、農業バッシングがなされた。この時期から農業の近代化が謳われたが、今日までしっかりと受け継がれ、食料自給率は37%になっている。農業を人身御供にして、日本は世界第二の経済大国になった。
その結果、日本は経済大国の地を大きく滑り落ち、地方は疲弊し農業など一次産業は衰退していった。
山下さんは小農学会を立ち上げ、家族農業にこそ農業の基本であり、昔の百姓であると言って憚らなかった。
山下さんは数年前から、国連が打ち出している世界家族農業年を、ほぼ全面的に支持れていた。長年にわたってアジアの片隅で訴えていたことが、世界的な運動になっていると述べられてる。世界は、小農・家族農業に目を向けて山下さんの時代がやってきた。
日本という国だけが政策的に、バイオ農業やスマート農業などと大型化、キンダイカへのシフトして再び、農業や農村を更なる疲弊した路へと歩ませている。
『農業は自然界の循環を活用して人間や家畜の食べものを生産する仕事である。当然その土台を守るための制約がある。それは①拡大よりも持続、②成長より安定、③競争より共生。昨日のような今日があり、今日のような明日があることが大事なのだ。』農の明日へより
ー老農は死なず消えゆくのみー