オフショアリングと雇用機会
最近、「オフショアリング」0ffshoringという言葉を頻繁に聞くようになった。この分野に関連して、ある辞書の項目執筆に関わっていることもあるが、私が最初にこの言葉を耳にしたのは、多分1970年代後半、第一次石油危機後の時期であったと思う。OPECの原油価格引き上げで競争力を失った産業が、海外へ生産拠点を移す動きであった。海外生産あるいは海外で調達するという意味で使われていた。当初は原油などの沖合採掘という意味からスタートしたのだろうが、最初は圧倒的に原料や製品を海外で生産・調達するという意味で使われていた。それに関連して、ある国の産業、付随して仕事や雇用の機会が海外に流出してしまうという、例の「産業空洞化」論争が盛んに行われた。
最近の議論も根底は同じ意味に基づいている。海外で調達する、あるいは海外へ仕事を委託するという意味に変わりはない。しかし、今回対象となっているのは、製造業というよりは、ほとんどがサービス関連の仕事である。とりわけ、この言葉が流行するようになったアメリカでは、昨年の大統領選挙でもたびたび登場するまでになった。
増大する海外委託
1990年代以降、コスト削減を目的に業務をアウトソーシングする企業や行政部門が増えている。委託をする側は、欧米や日本など先進諸国の企業が多く、委託の相手先はインドや中国など、比較的人件費が安いと思われている国々の企業である。
医療費の高いアメリカでは、病院でX線写真を造影した後、インターネットでインドのレントゲン技師へ送り、読影結果を送り戻してもらえば大きなコストダウンになるという話が議会で話題になったと聞く。確かに、近年のIT技術と医学の驚くべき発達を見ていると、もしかするとロボットによる遠隔手術ということも、近い将来可能になるかもしれない。手術室の隣でマジック・ハンドを使って手術するのは、すでに実験段階を過ぎて実用段階に入っている。
さらに、アメリカなどでは、使用言語が同じインドへITソフトウエア・システムの開発などを委託することは十分可能であり、すでに広範に実施されてきた。時差を利用すればシカゴの企業が、従業員が眠っている間、インドのバンガローに仕事を送っておけば、出社してきた従業員が結果を受け取り、さらに仕事を進めることができる。24時間操業?のIT企業ということになる。
コールセンターの人材は
また、インドやフィリピンへコールセンターの仕事を移転し、アメリカの顧客とマニラのコールセンターが直接コンタクトするという状況もかなり普及したようだ。もっとも、訛りのない英語を話す、地理の分かったオペレーターを出してほしいという顧客のクレームがあって、英語とアメリカの地理の研修に時間をとられているという「嘘のようなほんとの話」まで出ている(「コールセンター・ビジネス引き受けます」BS7:2004年12月14日)。コールセンターに働く人たちの待遇は、現地の賃金水準よりはかなり高いが、人材はそれほど豊富ではないようだ。
いずれにせよ、こうした傾向が継続・拡大すれば、関係国の雇用機会に顕著な影響をもたらすことは確実である。数倍から数十倍といわれる先進国と開発途上国の賃金格差を考えると、このオンラインの仕事移転の行方は検討しておかねばならない。継続して、この動きに注目して行きたい(2005年3月30日記)。
最近、「オフショアリング」0ffshoringという言葉を頻繁に聞くようになった。この分野に関連して、ある辞書の項目執筆に関わっていることもあるが、私が最初にこの言葉を耳にしたのは、多分1970年代後半、第一次石油危機後の時期であったと思う。OPECの原油価格引き上げで競争力を失った産業が、海外へ生産拠点を移す動きであった。海外生産あるいは海外で調達するという意味で使われていた。当初は原油などの沖合採掘という意味からスタートしたのだろうが、最初は圧倒的に原料や製品を海外で生産・調達するという意味で使われていた。それに関連して、ある国の産業、付随して仕事や雇用の機会が海外に流出してしまうという、例の「産業空洞化」論争が盛んに行われた。
最近の議論も根底は同じ意味に基づいている。海外で調達する、あるいは海外へ仕事を委託するという意味に変わりはない。しかし、今回対象となっているのは、製造業というよりは、ほとんどがサービス関連の仕事である。とりわけ、この言葉が流行するようになったアメリカでは、昨年の大統領選挙でもたびたび登場するまでになった。
増大する海外委託
1990年代以降、コスト削減を目的に業務をアウトソーシングする企業や行政部門が増えている。委託をする側は、欧米や日本など先進諸国の企業が多く、委託の相手先はインドや中国など、比較的人件費が安いと思われている国々の企業である。
医療費の高いアメリカでは、病院でX線写真を造影した後、インターネットでインドのレントゲン技師へ送り、読影結果を送り戻してもらえば大きなコストダウンになるという話が議会で話題になったと聞く。確かに、近年のIT技術と医学の驚くべき発達を見ていると、もしかするとロボットによる遠隔手術ということも、近い将来可能になるかもしれない。手術室の隣でマジック・ハンドを使って手術するのは、すでに実験段階を過ぎて実用段階に入っている。
さらに、アメリカなどでは、使用言語が同じインドへITソフトウエア・システムの開発などを委託することは十分可能であり、すでに広範に実施されてきた。時差を利用すればシカゴの企業が、従業員が眠っている間、インドのバンガローに仕事を送っておけば、出社してきた従業員が結果を受け取り、さらに仕事を進めることができる。24時間操業?のIT企業ということになる。
コールセンターの人材は
また、インドやフィリピンへコールセンターの仕事を移転し、アメリカの顧客とマニラのコールセンターが直接コンタクトするという状況もかなり普及したようだ。もっとも、訛りのない英語を話す、地理の分かったオペレーターを出してほしいという顧客のクレームがあって、英語とアメリカの地理の研修に時間をとられているという「嘘のようなほんとの話」まで出ている(「コールセンター・ビジネス引き受けます」BS7:2004年12月14日)。コールセンターに働く人たちの待遇は、現地の賃金水準よりはかなり高いが、人材はそれほど豊富ではないようだ。
いずれにせよ、こうした傾向が継続・拡大すれば、関係国の雇用機会に顕著な影響をもたらすことは確実である。数倍から数十倍といわれる先進国と開発途上国の賃金格差を考えると、このオンラインの仕事移転の行方は検討しておかねばならない。継続して、この動きに注目して行きたい(2005年3月30日記)。