時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

拡大EUと移民の動き

2005年03月29日 | 移民政策を追って
 EU拡大が実現すると、人の動きはどうなるだろうか。移民や国際労働移動の研究者ばかりでなく、関係国の一般の人々にとってもきわめて興味あるテーマである。それにもかかわらず、この問題は多くの予想できない要因を含んでいるため、さまざまな憶測が飛び交っていた。受け入れ側当事者として、移民政策の転換期を迎えているイギリスにおいても同様であった。
 拡大EUが成立した2004年5月1日当時、新加盟した中欧およびバルティック諸国からおよそ7400万人がイギリスで働く権利を取得できることになっていた。しかし、実際にはどういう状況になるのか、誰も分からなかった。
イギリス内務省のある研究は、年間5,000人から13,000人がイギリスには来るにすぎないと予想していた。他方、センセーショナルな報道は、旧約聖書の「エジプト脱出」の規模で民族大移動が起こるとして、危機感をあおった。未だ1年経過したわけではないが、その後調査の結果が公表され、実態がある程度判明した。その結果を記しておこう。

予想外の結果
 EU拡大が実現してみると、どちらの予想も正しくなかった。本年2月22日に公表された数値では、過去8ヶ月の間に123,000人がイギリスで働くことを登録した。政府の予想を大幅に上回ったが、出入国管理でコントロールできないほどの大きな数にはならなかった。
数の問題は別として、かなり注目を集めたのは、移民労働者が出身国別にかなり偏在し、集積して居住していることであった。とりわけロンドンは多くの労働者が集まると予想されたが、やや予想外な結果もあった。ロンドンにはブラック・カリビアンの61%、インド人の42%が居住している。ポーランド、スロバキア、リトアニアなどからの労働者は、あまり集中していない。かれらの32%だけがロンドンに居住している。他方、ブラック・アフリカンの場合は実に80%近くがロンドンに集中している。
 日本でもすでに1990年代初め頃から、出身国別に外国人が集住する地域、コミュニティが形成されていることはよく知られている。静岡県浜松市近傍、群馬県太田市、大泉町、豊田市保見団地などは全国的にも有名である。東京のような大都市では、池袋、新宿などに中国、韓国など出身国別のコミュニティが形成されてきた。最近では、新聞でも報道されたように、江戸川区にハイテク業界で仕事をするインド人のコミュニティが形成され、ちょっとした話題となっている。
 日本は人口に占める外国人の比率が小さいといわれているが、全国津々浦々、外国人の姿は別に珍しくない。1980年代後半には、代々木公園や上野公園に外国人が集まっているというだけで、メディアの記事になっていたのだが。それだけ、国際化が進んだといえるのだろうか。
 日本はITなどの専門家・技術者の受け入れにようやく手をつけ始めたが、さまざまな障壁があり、その数はあまり伸びない。3年ほど前にかなりの規模の調査に参加したことがあるが、国、企業、地域などにさまざまな障壁があることを感じさせられた。やはり、外国人が住んでみたいと思う魅力を備えなければ難しい。日本と同じように嫌われている国?のアメリカは、その点懐が広い。  
バブル期以前、経済大国であった頃は、それでも日本の人気はかなり高かったが、いまや周辺諸国との間でもぎすぎすした関係になっている。移民(受け入れ)政策とは、決して入国管理の段階で終わるのではなく、背後に広がる「社会的次元」を包括的に含む政策として構想されねばならないと言い続けてきたが、縦割り行政は相変わらずであり、改まる方向にはない。
 結局、国レベルの政策の欠陥を地域が背負い込むことになる。外国人労働者やその家族が特定の地域に、しばしば出身国別に集住するのは、ある点では自己防衛策である。しかし、彼らばかりの問題ではない。受け入れ側にも問題がある。集住を決める要因は、その意味で十分に検討に値する課題である。

集住を決める要因
 こうした集住・集積のあり方には、仕事の機会のあり方がかなり関連している。イギリスの場合、農業、食品製造などは移民労働者が多く、全体の5分の1近くに達している。建設、運輸、介護・医療などでは10分の1近い。
 中欧からの移民はイギリス政府に住宅給付を要求できないことになっているので、大都市生活は難しいといわれている。彼らの5分の4は、時間あたり6ポンド以下の低賃金しか得ていない。8カ国から参入したため、文化的要因もあって、集積して住むのも難しいのかもしれない。
その中で、ポーランドからの移民は流入者の2分の1以上なので、なんとかコミュニティを形成している。しかし、すでに定住したポーランド人の退役軍人や、共産圏からの難民は、母国からの移民労働者にかなり冷たい対応をしている。国境は開かれたが、競争が激しくなることは臨んでいないのだろう。イギリス居住のポーランド人会は、「スキルがなく、仕事につける見込みがなければくるな」というメッセージを母国へ送ったということで、一寸驚かされた(2005年3月29日記)。


イギリスでの調査結果については、下記資料によっている:
Digital version, The Economist, Feb26th, 2005
コメント (2)
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