詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

奇妙な夢(「こころは存在するか」、番外1)

2024-10-31 11:23:06 | こころは存在するか

 中井久夫に呼ばれて、小さな飲み屋に行った。ちょっと頭を下げて挨拶をし、顔を上げると中井久夫が古井由吉に変わっていた。そこへ大岡昇平が入ってきた。L字形のカウンターに座って、私はふたりが並んで話しているのを斜めから見る形で見ていた。大岡昇平が鞄のなかから一冊の本を取り出した。ずいぶん昔に書いたものだが、どこかに紛れてわからなくなっていた。全集にも収録していなという。「読んでみるか?」と、突然、大岡昇平が私に言った。「はい、感想を書かせていただきたい」。私はなれない敬語をつかって、そう答えた。
 その瞬間、それまで見ていた夢を奥底から破るようにして、大岡昇平があらわれて「おい、書くといっていたあの感想はどうした」と怒鳴った。

 そこで、目が覚めた。
 中井久夫が夢に登場するところまでは理解できる。実際に会ったことがあるし、交流もあった。なぜ、古井由吉、大岡昇平があらわれたのか。古井由吉の文体が好きで、私は全集を持っている。大岡昇平も大好きで、大岡は、私の読んだ限りでは魯迅と並んで正直なひとである。だが、古井由吉も大岡昇平も、全集に収録されている全作品を読んだわけではない。その、私の読んでいない作品のなかに、何か、私にとって大事なことばがあるのかもしれない。びっくりして目覚めた頭で、そんなことを考えた。
 たぶん、そうなのだろう、と思う。
 私は少し思い立って、死ぬまでに読み通すための本のリストを想定していた。いまは第一歩として和辻哲郎を読んでいるが、一年間で読み通す予定が大幅に遅れている。古井由吉も大岡昇平も、そのリストには組み込まれていなかったのだが、大岡昇平はなんとしても読まなければいけないという「啓示」なのかもしれない。
 そして、それはたぶん「正直」と関係があるのだ。「書くといったじゃないか、なぜ、まだ書かないのだ」と叱られているのだ。私は「正直」を貫いていない。「書く」と言ったのなら書かなければならない。
 ここからは、きょうみた夢とは関係がなくなるのだが。
 私には「夢」がある。書こうと計画している二冊の本がある。詩集と評論。どれも構想(頭の中のメモ)だけで、書き散らしたことばはメモにさえなっていない。それを書かなければならない。なんとしても書き始めるときなのだ。そう気づいた。
 私はどう考えてもあと数年のいのちなので、これは、かなりむずかしいことなのだが、そうなのだ、読んで何かを思っているだけではだめなのだ。それをことばにしなければなさらないのだ。「正直」とは、自分のことばをつらぬくことなのだ、と突然気づいたのである。

 こんなことは書いて他人に言うことではないのだが、書くことで自分の怠け癖を直したい。「正直」を貫く方便として書いておこうと思った。会ったこともない古井由吉と大岡昇平がわざわざ夢にまであらわれてきてくれたのだから、そのことに対して「返礼」しなければ、と思う。


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