詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

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自民党憲法改正草案再読(34)

2021-11-10 13:12:32 |  自民党改憲草案再読

自民党憲法改正草案再読(34)

(現行憲法)
第七章 財政
第83条
 国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。
(改正草案)
第七章 財政
第83条(財政の基本原則)
1 国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて行使しなければならない。
2 財政の健全性は、法律の定めるところにより、確保されなければならない。

 改正草案の、2項の追加(新設)は、どういう意味なのだろうか。財政が「健全」でなければならないのは当然のことなのだが、それを「法律の定めるところにより、確保」するというのがわからない。これは、逆に読めば「法律の定めるところにより、健全性を無視できる」ということにならないか。つまり、「法律」でこれこれの支出は財政の健全性を度外視して優先するということが起きるのではないか。
 もっと露骨に書けば。
 大企業の収益は株価に直結するから法人税は最優先で優遇する(低い税率にする)、軍備費は国の安全に直結するから最優先で優遇する(支出がどれだけになってもかまわない)ということが起きるのではないのか。財源が不足するなら、消費税を上げる。消費税の使途は、大企業の税率を下げた分の補てん、必要な軍備を購入するための資金に当てる。財政の健全性は無視する、という法律ができるのではないか。
 「法律の定めるところにより」だけでは、はっきりしない。さらに、「国会の議決」と「法律」のどちらを優先するのか。国会では「予算」に反対している。けれど、「法律」にもとづいて「予算」を強行執行するということがあるのではないのか。
 
(現行憲法)
第84条
 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。
第85条
 国費を支出し、又は国が債務を負担するには、国会の議決に基くことを必要とする。
(改正草案)
第84条(租税法律主義)
 租税を新たに課し、又は変更するには、法律の定めるところによることを必要とする。第85条(国費の支出及び国の債務負担)
 国費を支出し、又は国が債務を負担するには、国会の議決に基づくことを必要とする。
 「あらたに租税を課し」と「租税を新たに課し」の違いがわからないし、「又は現行の租税を変更するには」から「現行の租税」を削除し「又は変更するには」に変える狙いがわからない。私の想像できないことを企んでいるに違いないと思う。もし、同じ意味(意図)なら、わざわざ削除する必要はない。

(現行憲法)
第86条
 内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。
(改正草案)
第86条(予算)
1 内閣は、毎会計年度の予算案を作成し、国会に提出して、その審議を受け、議決を経なければならない。
2 内閣は、毎会計年度中において、予算を補正するための予算案を提出することができる。
3 内閣は、当該会計年度開始前に第一項の議決を得られる見込みがないと認めるときは、暫定期間に係る予算案を提出しなければならない。
4 毎会計年度の予算は、法律の定めるところにより、国会の議決を経て、翌年度以降の年度においても支出することができる。

 1項の変更は、2点。ひとつは「案」の挿入。これは国会で議決されるまでは「案」であるということなのだろうが、気になってしようがないのが読点「、」の挿入。「国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない」と「国会に提出して、その審議を受け、議決を経なければならない」はどう違うか。現行憲法は「審議を受ける→議決を経る」はひとつづきのことがら。「国会の審議を受ける→国会の議決を経る」。国会のということばが共通する。ところが改正案では、このひとつづきのことがらのあいだに「、」がある。「議決を経る」の「議決」が「国会の議決」ではなくて、ここには書かれていない別の機関の議決でも可能になる。「文脈」から考えれば、そういうことはありえない、とふつうは考えるが、しかし、自民党のやっていることは「ふつう」ではないのだ。憲法は権力を拘束するものだが、自民党の改正草案は逆に憲法で国民の権利を拘束し、内閣が独裁をすすめるためのよりどころなのである。「国会の議決を経て」ではないというために「、」を削除したのだと考えておいた方がいい。もし「国会の議決を経て」という現行憲法と同じ意味であるとするならば、わざわざ変更する必要はない。
 「これを」というテーマの提示を、「うるさい(日本語らしくない)」という理由で削除するなら、「、」の挿入はうるさくないのか。微妙なところにこそ、なにかとんでない企みが隠されていると疑う必要がある。
 2、3、4項の新設は、いずれも内閣の「裁量権」の拡大だが、4項の新設は非常に問題があると思う。「翌年度以降」があいまいである。「翌年度」だけではない。何かの都合で、どうしても執行できなかったら(たとえばある工事が障害物のために期間内におわないことが明らかになったから)1か月執行期間を延長するというようなことではない。もっと「長期」を見込んでいる。あらかじめ「複数年度」にわたる予算をつくり、それで財政を拘束するということが起きうるのだ。きっと。国防費の予算を「計画」だけではなく、「長期予算」として確保してしまう、ということが起きるのだ。そして、その場合、状況の変化に応じて「追加」するということはあっても、けっして「削減」という形での「補正予算」は提出しないだろう。
 2項の「予算を補正するための予算案を提出することができる」は、そのことを意味していると思う。
 3項は、いままでも「暫定予算」というものがあったのではないのか。いわゆる「必要経費(人件費など)」としての予算が成立していないと、働いている人が困ってしまう。わざわざ、こんなことを書いているのは、予選審議がもめたとき(野党の反対が強くて、年度内の議決が不可能になったとき)を想定し、時間をかけても内閣提出の予算案を必ず成立させる(修正案を封じ込める)という狙いがあるのではないのか。どれだけ時間がかかってもかまわない。かならず思い通りの予算にする、という狙いである。
 これは、こんなふうに考えてみればわかる。
 自民党はよく野党に「対案を出せ」という。しかし、予算に関して、野党は「案」を出すことができない。憲法で予算(案)を提出するのは内閣と定義しているからである。第73条5項に内閣の事務(仕事)を定義して「予算を作成して国会に提出すること」と定めている。野党は、したがって、その「案」に対して問題点を指摘し、変更を求めるということしかできないのである。その変更を求めるしかできないという野党の「弱点」を利用して、審議をだらだらといつまでも長引かせ、力づくで狙いどおりの予算を成立させるというのが、改正草案の狙いだろう。

 


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