「独立案」?
2020年11月12日の読売新聞(西部版・14版)の4面に「学術会議」問題の記事がのっている。
この見出しだけ読むと、学術会議が国から独立しようと検討していると勘違いしそうである。実際は、自民党が学術会議を「独立させよう」と検討している。「独立させる」が「独立」と省略されている。
これは新聞の見出しの原則に反する。
たとえば田中角栄が「逮捕された」ときは「田中角栄逮捕」という見出しになるが、必ず「警視庁 収賄容疑で」というような補足の見出しがつく。文章にすると「警視庁は、田中角栄を収賄容疑で逮捕した」である。角栄は「逮捕された」が、それは警察が角栄を「逮捕した」と「主語」「述語」「補語」を明確にしている。
という見出しは、読売新聞に言わせれば、自民PTが、学術会議を「独立させる案」を検討しているという意味だということになるのだろうが、どうしたって、学術会議が「国から独立する案」を検討していると誤解してしまう。
言い直すと、そういう誤読を誘うような見出しになっている。
なぜ、そんな見出しにしたのか。
ここには、ごまかしというか、嘘があるのだ。
記事にはどう書いてあるか。
「国から独立させる案」は「国から独立した法人とする案」と言い直されている。どこにも「恣意的」なものはないように見える。
しかし。
「独立する」ということばは、はたしてこんなふうにしてつかうことがあるのか。「独立する」というのはあくまで「主体的」な行為であり、「〇〇が独立する」といういい方が基本である。「〇〇を独立させる」では〇〇以外のものが関与する。それは「独立する」とはいわない。関与したものが「〇〇の独立」を装って、〇〇を支配することがあるからだ。真の「独立する」は文字通り「独り立ち」することである。
ふつう、こういうとき、日本ではどういうことばをつかうか。
会社ならば、「〇〇部」を「独立させる」とはいわない。〇〇部を切り離し「子会社化」する、という。言い直すと「分離する」である。そして、このときの「分離」は表面的には分離しているが、影で「支配」されていることが多い。子会社は親会社の意向にしたがって活動する。親会社の意向から「独立している」わけではない。
もし、だれかが会社を辞めて新しい会社をつくるならば、それは「独立する」だが、そのときは〇〇さんが「独立した」であって、会社が〇〇さんを「独立させた」ではない。
こう考えると、読売新聞の書いている「独立(する/させる)」は、日本語の用法として間違っている。あるいは、不適切(不十分)であるといわなければならない。
なぜ、こういう表現になったのか。読売新聞が独自に考え出したのではなく、自民党のいうままに書いているのだが、この他人のことばをうのみにして書くというところに問題がある。
自民党がやろうとしているは、学術会議の「分離」である。
しかし、いまだって学術会議は「政府の特別機関」であり、政府そのものとは「分離」状態にある。「完全支配」されているわけではない。だから、自民党がやろうとしているのは「分離」以上のことである。
それは、なにか。
「排除」である。会社で言えば「クビ」。会社の例で言えば、〇〇さんは「独立した」のではない、会社が「クビにした」のだ。しかたなく〇〇さんは自分で起業したのだ、ということになる。
「排除する」というと問題が大きくなるから、それをあたかも「独立した」(本人が臨んでいるようにした)と言い直す。
なぜ、学術会議を「排除」しようとするのか。
記事の最後に、こう書いてある。
甘利はあいまいな部分がある。学術会議(のメンバー)が中国の大学のどの部門との研究に能動的なのか、それが明確ではない。中国の安全保障に関しない研究に能動的なのかもしれない。だから、その部分は除外して考える必要がある。甘利が指摘しているのは「日本の安全保障研究には否定的」ということだろう。それを印象づけるために「軍事研究につなげることを宣言している中国の大学との研究には能動的だ」と読むべきだろう。 で、ここから明らかになるのは、簡単に言い直せば、「日本学術会議は、日本の安全保障研究には否定的」だから排除してしまえ。予算など出すな、である。「日本の安全保障研究」とは、もちろん「軍事(軍備/武器)研究」である。
「安全保障」にはいろいろな面があるが、問題にしているのは「軍事研究」である。
なぜ「軍事」だけ狙い撃ちにするのか。
たぶん。
「軍事研究」というのは、あるいは「武器」というのは、つかおうがつかわまいが、「消耗品」である。古くなれば、用をなさないことがある。軍事産業は必ずもうかるのである。軍事産業が自民党の「財政(献金)」にとってかかせないということなのだろう。自分たちの金儲けのために、学術会議に軍事研究をさせようとしている。それに反対するのなら、そんなものは「排除」してしまえ。でも、「排除」というと問題になるから「独立させる」とごまかすのである。
そして、この「排除」ということばをもとに考えれば、「6人任命拒否」が「6人排除」であったことがよくわかる。
任命されなくても「学問の自由」が侵害されたことにならない、というのはもっともらしい言い方だが、「排除された」ならば、それは「被害」なのである。任命されない学者はたくさんいる。候補リストにあがった105人以外は任命されない。しかし、その人たちは「排除された」のではない。単に任命されなかっただけ。6人は「任命されない」ことによって「排除された」。
ことばが違えば、事実も違うのだ。
ことばは「認識」そのものをあらわす。つまり「思想」をあらわす。「独立する」と「独立させる」は「事実」が違う。「独立する」と「分離する」も違うし、「独立する」と「排除する」も違う。
新しいことばが出てきたときは、必ずことばを支える「思想(ことばを生み出す現場)」にまでさかのぼって点検しないといけない。
自民党が「独立させる」案を検討していると主張しているなら、「独立させる、というのは分離するという意味ですか? 排除するという意味ですか?」と確認しないといけない。「学術会議から独立したい、独立させてほしいと言ってきているのですか?」と問い直さないといけない。
そういうことをしないならば、それは単に自民党の宣伝にすぎない。
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「情報の読み方」は10月1日から、notoに移行します。
https://note.com/yachi_shuso1953
でお読みください。
#菅を許さない #憲法改正 #読売新聞
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2020年11月12日の読売新聞(西部版・14版)の4面に「学術会議」問題の記事がのっている。
学術会議/「国から独立」案 検討/自民PT 「非公務員化」焦点
この見出しだけ読むと、学術会議が国から独立しようと検討していると勘違いしそうである。実際は、自民党が学術会議を「独立させよう」と検討している。「独立させる」が「独立」と省略されている。
これは新聞の見出しの原則に反する。
たとえば田中角栄が「逮捕された」ときは「田中角栄逮捕」という見出しになるが、必ず「警視庁 収賄容疑で」というような補足の見出しがつく。文章にすると「警視庁は、田中角栄を収賄容疑で逮捕した」である。角栄は「逮捕された」が、それは警察が角栄を「逮捕した」と「主語」「述語」「補語」を明確にしている。
学術会議/「国から独立」案 検討/自民PT 「非公務員化」焦点
という見出しは、読売新聞に言わせれば、自民PTが、学術会議を「独立させる案」を検討しているという意味だということになるのだろうが、どうしたって、学術会議が「国から独立する案」を検討していると誤解してしまう。
言い直すと、そういう誤読を誘うような見出しになっている。
なぜ、そんな見出しにしたのか。
ここには、ごまかしというか、嘘があるのだ。
記事にはどう書いてあるか。
日本学術会議のあり方を検討する自民党のプロジェクトチーム(PT)は11日の会合で、来週から論点整理に入り、年内に政府への提言をまとめる方針を決めた。政府の特別機関との位置づけを変え、国から独立させる案を含め検討する。特別職の国家公務員である会員の身分の見直しを求める意見も強まっている。
PTはこの日、経団連や日本工学アカデミーなどから非公開で意見聴取した。関係者によると、経団連は2015年にまとめた学術会議の見直しに関する提言を基に、国から独立した法人とする案などを訴えた。
「国から独立させる案」は「国から独立した法人とする案」と言い直されている。どこにも「恣意的」なものはないように見える。
しかし。
「独立する」ということばは、はたしてこんなふうにしてつかうことがあるのか。「独立する」というのはあくまで「主体的」な行為であり、「〇〇が独立する」といういい方が基本である。「〇〇を独立させる」では〇〇以外のものが関与する。それは「独立する」とはいわない。関与したものが「〇〇の独立」を装って、〇〇を支配することがあるからだ。真の「独立する」は文字通り「独り立ち」することである。
ふつう、こういうとき、日本ではどういうことばをつかうか。
会社ならば、「〇〇部」を「独立させる」とはいわない。〇〇部を切り離し「子会社化」する、という。言い直すと「分離する」である。そして、このときの「分離」は表面的には分離しているが、影で「支配」されていることが多い。子会社は親会社の意向にしたがって活動する。親会社の意向から「独立している」わけではない。
もし、だれかが会社を辞めて新しい会社をつくるならば、それは「独立する」だが、そのときは〇〇さんが「独立した」であって、会社が〇〇さんを「独立させた」ではない。
こう考えると、読売新聞の書いている「独立(する/させる)」は、日本語の用法として間違っている。あるいは、不適切(不十分)であるといわなければならない。
なぜ、こういう表現になったのか。読売新聞が独自に考え出したのではなく、自民党のいうままに書いているのだが、この他人のことばをうのみにして書くというところに問題がある。
自民党がやろうとしているは、学術会議の「分離」である。
しかし、いまだって学術会議は「政府の特別機関」であり、政府そのものとは「分離」状態にある。「完全支配」されているわけではない。だから、自民党がやろうとしているのは「分離」以上のことである。
それは、なにか。
「排除」である。会社で言えば「クビ」。会社の例で言えば、〇〇さんは「独立した」のではない、会社が「クビにした」のだ。しかたなく〇〇さんは自分で起業したのだ、ということになる。
「排除する」というと問題が大きくなるから、それをあたかも「独立した」(本人が臨んでいるようにした)と言い直す。
なぜ、学術会議を「排除」しようとするのか。
記事の最後に、こう書いてある。
自民党の甘利明・税制調査会長は自身のホームページで、学術会議に所属していた研究者の姿勢に関し「日本の安全保障研究には否定的な一方で、軍事研究につなげることを宣言している中国の大学との研究には能動的だ」と疑問を示している。
甘利はあいまいな部分がある。学術会議(のメンバー)が中国の大学のどの部門との研究に能動的なのか、それが明確ではない。中国の安全保障に関しない研究に能動的なのかもしれない。だから、その部分は除外して考える必要がある。甘利が指摘しているのは「日本の安全保障研究には否定的」ということだろう。それを印象づけるために「軍事研究につなげることを宣言している中国の大学との研究には能動的だ」と読むべきだろう。 で、ここから明らかになるのは、簡単に言い直せば、「日本学術会議は、日本の安全保障研究には否定的」だから排除してしまえ。予算など出すな、である。「日本の安全保障研究」とは、もちろん「軍事(軍備/武器)研究」である。
「安全保障」にはいろいろな面があるが、問題にしているのは「軍事研究」である。
なぜ「軍事」だけ狙い撃ちにするのか。
たぶん。
「軍事研究」というのは、あるいは「武器」というのは、つかおうがつかわまいが、「消耗品」である。古くなれば、用をなさないことがある。軍事産業は必ずもうかるのである。軍事産業が自民党の「財政(献金)」にとってかかせないということなのだろう。自分たちの金儲けのために、学術会議に軍事研究をさせようとしている。それに反対するのなら、そんなものは「排除」してしまえ。でも、「排除」というと問題になるから「独立させる」とごまかすのである。
そして、この「排除」ということばをもとに考えれば、「6人任命拒否」が「6人排除」であったことがよくわかる。
任命されなくても「学問の自由」が侵害されたことにならない、というのはもっともらしい言い方だが、「排除された」ならば、それは「被害」なのである。任命されない学者はたくさんいる。候補リストにあがった105人以外は任命されない。しかし、その人たちは「排除された」のではない。単に任命されなかっただけ。6人は「任命されない」ことによって「排除された」。
ことばが違えば、事実も違うのだ。
ことばは「認識」そのものをあらわす。つまり「思想」をあらわす。「独立する」と「独立させる」は「事実」が違う。「独立する」と「分離する」も違うし、「独立する」と「排除する」も違う。
新しいことばが出てきたときは、必ずことばを支える「思想(ことばを生み出す現場)」にまでさかのぼって点検しないといけない。
自民党が「独立させる」案を検討していると主張しているなら、「独立させる、というのは分離するという意味ですか? 排除するという意味ですか?」と確認しないといけない。「学術会議から独立したい、独立させてほしいと言ってきているのですか?」と問い直さないといけない。
そういうことをしないならば、それは単に自民党の宣伝にすぎない。
*
「情報の読み方」は10月1日から、notoに移行します。
https://note.com/yachi_shuso1953
でお読みください。
#菅を許さない #憲法改正 #読売新聞
*
「天皇の悲鳴」(1000円、送料別)はオンデマンド出版です。
アマゾンや一般書店では購入できません。
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