詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

佐藤文香「陽気」

2009-09-05 00:23:46 | その他(音楽、小説etc)
佐藤文香「陽気」(「ふらんすどう通信」121 、2009年07月25日発行)

 佐藤文香は宗左近俳句大賞を受賞した俳人である。その受賞作を私は知らないし、他の作品も知らない。たまたま「ふらんすどう通信」にのっている「陽気」という近作を読んだ。
 冒頭の一句がとてもいい。

初恋や氷の中の鯛の鱗

 今はなかなかそういう売られ方をしないが、魚屋の店先に、砕いた氷があって、そのうえに魚が並んでいる。誰かが鯛を買っていったあと、その空白というか、鯛がいままでいた場所に、名残のように鱗が一枚落ちている。--そんな小さな風景は、ふつうは見えないかもしれない。そういうふつうは見えない風景を見てしまうのが初恋なのだと、ふと思ったのである。
 初恋。恋にさらわれていったこころ。そのこころのかけらのように、いまここにある鱗。初恋だから、いつの日か、かけらと本体が入れ替わってしまうかもしれない。そういうことも、感じている作者。
 あ、初恋は、ほんとうは初恋ではなく、初恋であってほしいと思う気持ちが呼び寄せる何かなのだ。--ほんとうの初恋のときは、それが「初」であるかどうかなど、わかりはしないのだから。「初」には、遠い、遠い、遠い、願いがこめられている。
 もしかすると、「鱗」は、初恋以前の恋、この恋を「初恋」にするための、こころのかけらかもしれない。

新しいかき氷機もまた機械

僕らのコンクリートの倉庫夏休み

 この2句の、明るく、透明な、哀しい響きもとても気持ちがいい。



句集 海藻漂本
佐藤 文香
ふらんす堂

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