和辻哲郎「尊皇思想とその伝統」のなかに、興味深い表現がある。記紀に書かれた神の異義について触れたものだが、記紀に登場する神は
絶対者をノエーマ的に把捉した意味での神ではなく、ノエーシス的な絶対者が己れを現わしきたる通路としての神なのである。
ノエマ=思考によってとらえられた対象、ノエシス=思考作用、思考する運動という「理解」でいいのかどうか、「絶対者」が「ノエシス」と結びつけられていることに私は引きつけられる。和辻は「思考する、その動き」そのものが「絶対」であり、「思考された対象(存在)」を「絶対」とは結びつけていない。
生きているとき、もし「絶対」というものがあるとすれば、「思考する」という「運動」が絶対なのである。
これは、もしかすると、和辻批判に対する和辻の反論とも言えるかもしれない。
和辻の提出している「結論」は「間違っている」かもしれない。つまり「絶対」ではないかもしれない。しかし、その「結論」までの過程で動いている動いていることばの、その「動く」ということは「絶対」なのである。そこには「必然」がある。もちろんそれは「和辻の必然」であって、ほかのひとにとっては必然ではないかもしれない。しかし、そういうことは書いているひと(考えているひと)にとっては重要ではない。「考えること=私」であること、それが基本である。
「考える」という運動を放棄して、「他人の考え/考えた結果(結論)」を並べてみても、そこには「考える」ということの絶対は存在しないのである。
私の書いていることは、「間違っている」だろう。私はいつも「誤読」しかしない。しかし、その「誤読」は、私にとっては「必然」なのである。「誤読する」ために読むのであって、「結論」を知るために読むのではない。「結論」というのは、いつも「他人のことば」のなかには存在しない。もちろん「私の結論」のなかにも存在しない。私は「結論」めいたものがあらわれてしまったら、次には、それを壊すために書く。
和辻のことばを借りて言えば「通路」であることが重要なのであって、「通路」のむこうに待っているのは「空」なのだ。
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