詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

コーネル・ムンドルッツォ監督「ホワイト・ゴッド」(★★)

2015-12-31 19:19:56 | 映画
監督 コーネル・ムンドルッツォ 出演 ハーゲン(犬)、ジョーフィア・プショッタリリ

 タイトルは「ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲(ラプソディ)」ととても長い。何が「ホワイト・ゴッド」なのか、わからない。「god」をひっくりかえして「dog」なのか。つまり「dog」のひっくりかえった状態を、そう呼んでいるのか。
 愛犬家としては、こういう映画はおもしろくない。
 だいたい自由恋愛で生まれた犬を「雑種」と差別してはいけない。「血統書」つきの犬のなかにも本気で好きになった同士の犬の子どももいるかもしれないが、飼い主の「好み」で相手を押しつけ、子どもをつくらせるなんて、古くさい政略結婚ではないか。
 というようなことは、映画とは関係ないかもしれないが、関係ない「事情」を抱えてみるのが「ファン(ミーハー)」というものである。
 さて、この映画。
 いちばんの見どころは、犬が集団で街中を走るシーン。わっ、すごい。CGではなさそう。どうやって、こんなに多くの犬を同じようなスピード(全力疾走)で走らせたのだろう。我が家の犬は走るのが嫌いだから、この映画には出られないなあ、と思いながら見た。
 どんな工夫がしてあるかというと。
 スクリーン全体に犬が走るシーンが広がる瞬間もあるのだが、アップが多い。スクリーン全体に犬の体が映る。あ、こんな近くで犬が走るときの「肉体」を見たことがない。それにびっくりして、少ない犬だけのシーンでも、非常に多くの犬がいるように見える。警官のバリケードを乗り越えて逃走するシーンにそれが効果的につかわれている。
 これは「闘犬」のシーンにも応用されている。アップすぎて、どんなふうに闘っているかがよくわからない。日常的に犬のけんか(あるいはプロレスごっこ)を見るときは、人間は犬から離れている。そして、自分の「見たい」部分に焦点をあてて犬の動きを見ている。「全身」を見ながら、一部に焦点をあてて見ている。ところがスクリーンでは、その「焦点」が「フレーム」全体に広がってしまう。どこを見ていいのか一瞬わからなくなる。一部を選んでみるのではなく、カメラが切り取った「フレーム」の「広さ」を見てしまう。
 で、混乱し、それを「迫力」と勘違いする。人間の目の機能と、レンズとフレーム構造の「違い」を巧みに利用している。犬の演技というよりも、「カメラ」の演技である。
 ラストシーン。犬が全部、伏せをした静止状態になってみると、犬の数が、それまで見てきた数より少なく感じられるのは、そういうことも影響している。犬ではなく、カメラが「演技」しているから、カメラが動かない(動けない)シーンでは、それまでの犬の表情とは差がでてきてしまう。クライマックスなのに、ここは大失敗だね。あと数倍の犬をあつめないと迫力にならない。
 ま、しかし、これは余分なこと。どうでもいいことを書いてしまってから、犬について書く。
 私が好きなシーンは、ハーゲンが街をさまよいながら歩くとき、船の汽笛に反応するシーン。大きな音だから驚いたのか。いや、そうではなく、その音が少女の吹くトランペットの音に似ているから、あ、少女はどこ?と探してしまうのである。このときの、船をみつめるハーゲンの表情(肉体全体の動き)がなんともいい。足の乱れ、耳の動きに、胸がせつなくなる。あれは船の汽笛だよ、と教えてやりたくなる。少女はあそこにはいないよ。
 このシーンがあって、最後のシーンの少女が吹くトランペットが生きてくるのだが、あれは何? もしかして「音階」がいっしょだった? 私は音痴なので区別がつかないが、もしかすると音色が似ているだけではなく、音階そのものが同じだったのかなあ。
 そうか、そこまで犬の聴覚はしっかりしているのか。
 少女は、ハーゲンを探すとき、青いパーカーを着ている。犬と遊ぶとき、いつも着ていた。そのパーカーを見れば、少女だと気付く。そう思ってのことなのだろう。しかしハーゲンは青いパーカーには反応せず、トランペットに反応する。
 犬は色盲といわれる。だからか。あるいは人間が「視覚」を頼りにすることが多いのに対し、犬は「聴覚」で世界を識別することの方が多いということだろうか。先に書いたカメラの「演技」、つまりフレームと人間の焦点のしぼり方の違いの利用は、人間だからおきる一種の錯覚なのか。
 我が家の犬は、ジャズとクラシックは平気だが、ミッシェル・ポルナレフのフレンチ・ポップスが苦手で、音楽をかけると部屋から出て行ってしまう。またかつては「津軽のふるさと」が「子守唄」だった。歌うと、そばに来て寝るのである。しかし最近は「津軽のふるさと」に反応しなくなった。飽きてきたのか。新しい「好み」を探して絆を深めなければ、と思った。
 こんなことは映画とは関係がない。だから、書いておきたい。
     (ユナイテッドシネマ・キャナルシティ・スクリーン4、2015年12月30日)





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