四方田犬彦氏の「モロッコ流謫」は革染色職人街について以下のように書いています。(p61~62)
「(フェズは)逃げ場のない内陸にあって、モロッコ的なるものを何世紀にもわたって黒く煮詰め、壁という壁、小径という小径にべっとりと塗り重ねたような息苦しさと、異教徒である私にむかって獰猛で邪悪な眼差しを差し向けてくるところであった。このような感想をもった原因のひとつは,摺鉢状に内側が窪んだ旧市街の中心、土地がもっとも低くなっている川べりに設けられた皮鞣し工場をたまたま覗いてしまったことが、作用しているかもしれない。*****巨大な岩盤のうえに、人間の軀がすっぽりと入るくらいの穴が何十と穿たれていて、****穴という穴に茶褐色や赤の染料が貯蔵されていて*****世界に名高いモロッコ皮の製造工房だった。腐乱した肉がたてる独特の臭気が鼻腔を襲い、しばらく立っていると、軀の全体が裏返るような嘔吐感が込みあげてくる」