熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

中西輝政:グローバル時代の国家と企業・・・過剰適合と孤立の歴史に学ぶ

2006年03月17日 | 政治・経済・社会
   新日本監査法人主催の「ナレッジインスティテュート公開セミナー」の「グローバルエコノミーで勝つための日本の戦略で、中西輝政京大教授が、「『グローバル時代』の生き方―国家と企業にとっての指針」と言う演題で興味深い論陣を張った。

   このような演題で話を聞くのは経済や経営専門の学者や評論家の場合が多いので、特に国際外交やその戦略論の政治学者である中西輝政教授の話は、視点が違う以上に面白い。
   グローバル化とは、国家と世界が一体となると言う語感を持つが、キイワードは競争(Competition)で、市場の一体化ではなく、競争が一体化することであると言う。

   荒川静香のイナバウアーやWBCのアメリカ人審判の判定などカレント・トピックスを例示しながら世界の標準(Standard)の変遷を語る。
   日本の現代の歴史が、世界標準にキャッチアップする為に悪戦苦闘し、その過程において如何に過剰適応と孤立の歴史を歩んできたかを、ワシントン軍縮会議から第二次大戦破局までを例に引いて語る。
   今日のグローバル時代においても、日本は同じ様な難局に直面しているので、歴史の教訓を十分に肝に銘じて、世界と戦う戦略の哲学を確立することが必須だと言うのである。

   ワシントン軍縮会議で、保有主力艦の総トン数比率を米英5、日本3に決められたが、それを受け入れ、それ以外の制限されていない補助艦艇に力を注いだ。
   しかし、それも、ロンドン軍縮会議で、補助艦艇の総トン数比を、米英10、日本7に決められ不満だったが受け入れて、今度は規制のない航空機に力を入れた。
   このように日本は、不満であっても決められた標準、即ち、秩序を受け入れてその範囲で最善の道を見つけるべく適応してきた。
   条約を受け入れて、Comply withし過ぎたのである。
   日本の経済外交や日本企業の対応がこれに良く似ていないであろうか。経済的な交渉では、BIS規制が最悪の負け戦だと言う。

   このような日本の戦略は、富国強兵策を採った明治時代や戦後の経済復興や経済成長の時代には有効な政策ではあったが、しかし、その結果は過剰適応しすぎて世界から孤立してしまった。
   今の日本は、米国EUと比較して経済規模では軍縮時代と同じ位の悩ましい微妙な位置にある。
   
   何を世界に向かって発信するのか。
   大義名文と自己利益である。
   米英は、この二つの柱を結びつけて主張するのが実に上手いが、大陸ヨーロッパは時には両者が相反していて交渉し易いことがある。
   この場合、自己主張が極めて重要な意味を持つ時代であることを熟知すべきである。
   日本には、駆け引きと言う言葉がある。武士の馬上の戦いで、如何に駆け如何に引くかと言うことであるが、このタイミングが重要なのであるが、現在日本人は武士の兵法からさえも何も学んでいない。

   外に合わせる場合、重要な点は、それによってどれだけのコストが掛かるのか、を十分に分析して認識することである。
  譲歩することによって一定期間は利益を確保できるかもしれないが、深い洞察力と広い視野がないと、永遠に後追い構造に陥ってしまって活力を消失してしまう。
日本は軍縮、金解禁、等々により長期に亘って大変な損失を蒙る等何度も苦渋を味舐めてきている。
   交渉は、孫子の兵法が要諦。己を知り敵を知れば百戦危うからず、である。
   相手の意向を出来るだけ早く見つけて、出来るだけ遅く行動する。粘り強く交渉して潔く譲歩することである。

   日本の弱みはすぐに譲歩をすることである。
   これは、歴史の呪縛、適応力があるから摩擦を避けよう、足元が崩れるのを恐れこの辺で妥協しておこう、と言った日本人の特殊な事情によるが、これでは永遠に交渉では勝てない。
   今こそ、日本が国際舞台において確乎たる地位を築く為には、国家戦略に対する崇高かつ適切なな哲学が必要なのであると、中西教授は主張する。

   坂村健東大教授が、T-エンジンを引っさげてRFIDの世界で世界標準を確立すべく戦っているが、敵はアメリカだけではなく、日本政府の国家戦略の脆弱性と中西教授の言う過剰適合に慣れてしまった日本の経済社会であることが痛いほど良く分かる。

   ところで、私の海外事業での、主に、欧米人との交渉経験から言うと、「攻撃は最大の防御なり」である。
   とにかく主張しないと馬鹿にされることが落ちで、強引に正論を主張すると、不思議にもその時点で相手の尊敬を勝ち得ることが多かった。
   まず、自己主張すべきことを確定・確認してから交渉に臨み、先に当方の言い分を過剰なくらい主張して相手の出方を見て戦略戦術を打つことである。先手を取られると交渉力が弱くなってしまう。 
   受けて立つのが横綱相撲と言った論理が成り立たないのが国際舞台での条理で、とにかく、大義名文を掲げて如何に自己利益を確保すべきか、アングロサクソン流の交渉術を勉強すべきは当然であろう。
   (もっとも、このやり方を通すと日本のビジネス社会や会社では失敗する、日本のスタンダードではないのである。)

     
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