熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

バブルを予言するハリー・S・デント・Jrのニューエコノミー論

2006年06月12日 | 政治・経済・社会
   アメリカの株ブーム、そして、日本の長期デフレ不況を予言したハリー・S・デントが「バブル再来」の本の後半に、ニュー・ミリオネア・エコノミーの到来に触れ新しい企業の在り方を語っていて面白い。

   ニュー・エコノミーの主役となるのは、スタンリーの「隣の億万長者」ではなく、技術革新を活かした起業家、企業オーナー、専門職や知識ベースで仕事をする人等々、株に投資し企業を所有するなど、異常な経済ブームに乗って金持ちになったニューリッチ、ボボス(ブルジョア・ボヘミアン)だと言うのである。
   富を築く最良の手段は企業オーナーになることで、誰でも起業家になれ事業のオーナーになれる時代になったのだと言う。  
   
   このような経済を支配するニューリッチは、量よりも生活の質を、最低価格より良質なサービスを、仕事の指図を請けるよりは自己決定を、決まった職務をこなすのではなく真の違いを生むことを重視し、時間を大切にし、自尊心も高い。
   新しい価値観、新しいライフスタイル、そして新しい労働環境の出現を意味している。

   ところが、殆どの大企業は、この大規模化し影響力のある新富裕層を相手にせずに、依然として中流階級を相手にした「最低価格」戦略で商売をしている、が、この市場は競争が激しく利益率も低い。
   ベンツは何時も順番待ちで、マツダは何時もセール中だが、この違いに注目せずに、相変わらずに旧態依然とした市場ばかりを追っかけている、と言うのである。
   
   狂乱の1920年代に、T型車のフォードを、GMはワンランク上のキャデラックやビュイックで、富裕な新世代の高まっていた質へのニーズに訴えて自動車業界の首位争いを制した、丁度、そのような時代が再来していると言うのである。
   この点が、デントの80年サイクルの長期大景気循環のブーム局面と一致するところでもある。

   1970年代から1990年代にかけては、ディスカウント業界が台頭して日用雑貨品を筆頭に価格競争が激化して、割安セグメントが台頭した。カテゴリーキラーが精力的に活動しエブリディ・ロープライスのウオールマートがトップ企業となり、IT革命と中国等の台頭でモノの価格破壊が日常茶飯事になってしまった。 
   ところが、21世紀に入って世界経済の同時好景気に支えられて、経済の主力は、プレミアム・セグメントに移ってきたのである。
   価格やコスト競争に汲々として程度の低い次元の競争で企業を経営するのではなく、付加価値の高い創造的なプレミア製品やサービスで創造出来る企業に脱皮しない限り、その企業の将来は暗いと言うことなのであろうか。

   デントは、2005年以降に、真の消費者革命を起こすのは、ブロードバンド接続の普及と、音声起動または音声認識技術の進歩、そして、最終的には双方向の動画通信(リアルタイムで個別化されたサービス)の台頭だと言う。
   2001~2年のITバブルの崩壊は、ITがまだ期待した消費者革命を引き起こすには早過ぎたということで、ITの真の革命は、企業の組織化手法やビジネス手法の変革である。
   全く新しいビジネスモデル(トップダウン型ではなくボトムアップ型の経営、単なる低コスト・低価格ではなく、リアルタイムで個別化されたサービス)の出現を意味するので、エコーブーマー(ベビーブーマーの子供)世代の台頭と呼応して、これからが真の第4次革命で大ブームを引き起こすと言うのである。
   非常に面白い長期景気循環論であるが、この分析が正しいとすると、巷のアメリカ経済論は間違っていて、アメリカの景気の減速やドルの暴落などアメリカ経済の先行きに対する不安は杞憂となる。
   
   このデントの本だが、縦横無尽に最近のアメリカの世相や経済社会の変質を描いた書物を取り入れながら、持論を展開しているのが面白い。
    
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする