熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

大学発ベンチャー活性化シンポジウム

2007年04月09日 | イノベーションと経営
   日本の経済社会の発展の為には、イノベーションを追求して国際競争力の強化や地域経済活性化することが大切であり、「知の集積」の場である大学が、率先して知を社会還元すべくベンチャーを立ち上げてこれを持続的発展させることが求められている。
   文科省はじめ政府の肝いりで大学発ベンチャー施策を推進して5年、更に活性化して持続的な発展に向けた新たな展開が必要であると言う趣旨で、独立行政法人科学技術振興機構が、丸ビルホールでシンポジウムを開いた。

   徳永保文科省研究振興局長の共催者挨拶に引き続いて、相澤益男東工大学長が基調講演「イノベーションと大学発ベンチャー」で、必要性を説きながらも日本のベンチャーが育ちにくい現状など問題点を指摘していた。
   シュンペーターに触れないイノベーション論を始めて聞いて興味深かった。
   余談だが、私自身、最近、あらゆるところでイノベーションと言う言葉が乱発され、改革革新と同義語のように使われ始めているのに、何となく危惧を感じている。

   次に、熊本を拠点に遺伝子破壊マウス事業と抗体事業を展開しているバイオ・ベンチャーのトランスジェニックの是石匡博社長が、特別講演「大学発ベンチャーの起業と成長について」で、バイオベンチャーの先の見えない苦しくて長い事業展開の軌跡について語った。
   このシンポジウムには、ほかに、大学発バイオベンチャーの(株)総医研ホールディングの梶本修身取締役やアンジェス(株)の森下竜一取締役も、後半のパネルディスカッションに参加して活発な議論を展開していた。
   バイオベンチャーにとっては、シーズの開発に長期間を要し、大学に残って長い間研究を続ける必要があり、膨大な予算を必要とするので、大学発ベンチャー向きだと、阪大教授でもあるアンジェスの森下氏が指摘していた。それに、医者が患者のニーズに必死に応えようとするので、案外ベンチャーに向いているのだそうである。
   昨年9月に一橋大学が「日本の競争力とバイオ・イノベーション」シンポジウムを開いて、今や武田薬品を凌駕しているバイオベンチャーのアムジェンのFORAKER副社長が来日して成功の秘密を語っていたが、日本企業のように赤字基調を続けていると説得力がない。

   事例紹介のところでは、東大産学連携本部長の藤田隆史教授が「東京大学における大学発ベンチャーに係る取り組みについて」、北九州市大矢田俊文学長が「北九州学術研究都市における大学発ベンチャーに係る取り組みについて」説明した。
   東大の場合は、ベンチャー事業については相当学内体制が整備されているようであり、北九州の場合は地域としての産業振興への取り組みに意欲的であると感じた。
   しかし、ベンチャーが成功すれば、総て故郷を離れて東京に集中してしまうので地域の振興に結びつかないであろうと言う指摘もあったし、何れにしろ、シーズが生まれてもベンチャーとして立ち上げるまで行くのは至難の業であり、現実は大変だと言うことのようであった。

   興味深かったのは、原丈人氏の指摘で、「アメリカでは長期のリスクを取るベンチャーキャピタルは死んでしまった。日本で、税制改革も含めて、このベンチャービジネスの初期のリスクキャピタルを民間から容易に集められるシステムを開発すれば、世界初の快挙であり、世界のベンチャーを集められる。」と言う提示である。
   アメリカでは、このベンチャーキャピタルに、短期の投機的投資にしか関心のない筈のヘッジファンドが投資し始めており、また、スタンフォードなどのビジネス・スクールで短期的な利潤追求しか教えないので、気の長いベンチャー投資に関心を示すキャピタルはなくなったと言うのである。
   それに、SOX法の導入で、如何に小規模でもIPOを行えば面倒な内部統制システムを確立しなければならなくなったので、ナスダックへの上場が極端に減ってしまったとも言う。
   ベンチャーを興して、IPOとM&Aを通じて成功を収めると言うビジネスモデルが容易に成り立たなくなったと言うことであろうか。
   
   このシンポジウムは、元インテルの西岡郁夫氏の素晴らしい司会で、他に、MOTの大御所松田修一早大教授や、主催者の文科省の佐野太研究環境・産業連携課長や科学技術振興機構の小原満穂審議役がパネリストとして参加しており、2時間に渡って非常に幅広い興味深い大学発ベンチャーについて議論が展開された。

   非常に程度の高い実に有意義なシンポジウムで、勉強することが多かった。
   しかし、日本の将来を画するイノベーション志向のベンチャー戦略論を、何故、文科省が主導して世に問うのか。
   大学の管轄は文科省であり、その産学協同は文科省の重要な職務であると言うことであろうが、同じ様な試みは経済産業省なども行っており、イノベーションが日本再生のキイだと主張する安倍内閣にとっても、日本政府として、窓口なり主管を総合なり統一してことに当たるべきだろうと思った。

   大学側に、文科省が強力にバックアップしているから、ここまで、ベンチャーが育ってきたのだと言う気持ちがあり、大学発ベンチャーへの教授たちの参画は、今でも学者としての業績なり資質にマイナスだと言う風潮が残っており、文科省が方針を変えて梯子を外すと一挙に瓦解すると言った指摘もされていて問題の深さを感じさせた。
   小原氏が、ベンチャーの悩みは、長期資金調達の困難、人材難、販路開発の困難等だと言っていたが、どうも、アドミニストレーションなど経営管理部門の悩みも相当深そうである。

   大学は、ニーズを殆ど顧慮せずにシーズを追う世界であり、それに、知の集積した大学発ベンチャーと言えども、何時成功するか知れない気の長いイノベーションへの戦いである。
   ニーズからイノベーションを追求するのが事業化への本来の姿だと思うが、基礎研究重視のイノベーション戦略を追求するのなら政府の確固たるポリシーが必須であろうと思う。
コメント
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