「選択と集中」、「アウトソーシング」、「IT化」というものを検証してみると、世間で言われている「流行」がいかに当たらないことが多いかよくわかる。
こういう流行語を本当に理解しないで、時流に遅れまいと口にする輩が多すぎる。・・・よく理解もしないで、言葉だけ躍らせても、百害あって一利なしである。(中村末広著「経営は「1・10・100」196ページ)
「ソニーの遺伝子を受け継ぐ「創造」の伝道者が初めて語る成功の法則」と言うサブタイトルを帯に付けたこのソニー中村研究所の中村末広所長(元ソニー副社長)の本だが、先日の講演で中鉢社長が紹介していたので読んだが、一昔前の製造業の改革の話で、トヨタ・ウエイを知る人には、如何にソニーが時代錯誤の遅れた会社であったかと言うことが良く分かる。
著者の見解は、20世紀の大量生産型の製造業の話で、イノベーションの部分では参考になった所があったが、これがソニー社員の研修に使われているようだが何をかいわんやである。(もっとも、本の出版が2004年4月23日だから、タイムラグで現実は変わっているかもしれない。)
色々異論はあるが、冒頭部分の錯誤ぶりに限って私論を述べたい。
選択と集中だが、自社の得意分野であるコア・コンピタンスに経営資源を集中して、それ以外の分野においては、売却したり外部委託(アウトソーシング)するとの理解が大方の常識だが、
中村所長は、タイの工場を閉めてマレーシアの工場に生産を集中すると言った地理的な集中を言って、生産は出来るだけ消費者に近い所に分散すべきだとの持論を展開している。全くナンセンスである。
このソニーの選択と集中については、成長戦略がなかったと中鉢社長がいみじくも言わざるを得なかったが、あのストリンガー中鉢体制に移行してからは、この「選択と集中」戦略こそがソニーの最優先の経営課題になっている。
差別化の最たる戦略的製品であったロボットをトヨタに売り、ソニーが社運をかけて開発した筈のゲーム機用MPU「セル」を含むシステムLSIの製造工場を東芝に売ってしまったのは何故だったのか。あえて、コモデティ化してしまって競争の激烈なコンシューマー・エレクトロニクス等コア・コンピタンスに経営資源を集中したかったからである。
アウトソーシングについては、経営が大変だから安い外部に外注して従業員を解雇するなどと言うのは間違いで、売れるものがあれば出来るだけ自分たちで守り続けて行くべきだとして、飯炊きを外国人にやらせている店に負けて子供を解雇せざるを得ない寿司屋の話をしているが、グローバル時代のアウトソーシングは、そんな次元の話ではない。
「Made in America」のMITチームのスザンヌ・バーガーが、2005年に、著書「グローバル企業の成功戦略」で、ソニーを名指しにして、
「古いモデルの固守には危険が伴う。統合の協働効果を盲信した結果、機能ごと、製品ごと、工程ごとの評価――自社が最も特異としているのは何か、そして、国内国外のどのサプライヤーが自社より優れているか――を怠った企業は、やがて苦境に追い込まれる。
ソニーのデジタル音楽プレーヤーは、本当に、ソニー配信の音楽を聴けるだけで良いのか? ハイエンドのVAIOの生産は、本当に、低価格で台湾のODMに委託できないのか?」と言っている。
既にiPodに世界制覇された今では前者は消えてしまい、後者は既にソニーの台湾業者等へのアウトソーシングは進んでいる。
タプスコットとウィリアムズが「ウイキノミクス」で、閉鎖的で階層構造で価値を創造する一体型の多国籍企業は過去の遺物と言っているが、前世紀の製造業の成功体験を後生大事にして、過去のシガラミに呪縛されていればされているほど時代に取り残される。
ソニーの改革は、ワンテンポもツーテンポも遅いのである。
ところで最後の「IT化」だが、これが現状ならソニーのIT認識が如何に時代錯誤かと言うことなので、コメントも無意味であろう。
同じような感じを、中鉢社長が立花隆氏との対談で、出井氏が導入したEVA経営を非難していた時も感じたのだが、やり方が悪かったり自分の理解不足を棚に上げて良く言うなあと思う。
ここでは、オーバースペックでWiiにコテンパンのPS3へのコメントに止めたい。
ウイキノミクスの時代の今日では、顧客を筆頭に総てのステイクホールダーを巻き込んだグローバルベースでのマスコラボレーションが進行している。
事典のウイキペディアやリナックスが典型的だが、世界の企業は、このインターネットを使ったオープンソースのマスコラボレーションを活用して大変な成果を上げている。
立花氏が言っているのだが、東大生産技術研究所に、このPS3の活用方法の開発を依頼すると素晴らしいアイデアが生まれる筈と助言している。
私は、それよりも、ソニーがPS3の秘密技術情報を開示して、総てのユーザーを糾合して、如何にこの途方もない能力を持ったPS3を活用出来るかを世に問うことだと思っている。
喉から手が出るほど技術情報の欲しいマイクロソフトが喜ぶかも知れないが、しかし、そのマイクロソフトの優秀な社員を含めて腕に自信のある世界中のITエンジニアが覆面でPS3の更なる開発に馳せ参じる筈である。
ソニーのエンジニアではタカが知れている。世界の俊英を開発チームに巻き込むのである。そこまで世界の製造業は進んできているのだ。
もう一度言うが、ソニーの技術力はソニーの社内だけでは処理出来ないほど進み過ぎており、ソニーのエンジニアや経営者だけでは対処できないほどのエネルギーを持っているのである。
爆発させるためには、ウイキノミクス時代のグローバルベースのIT技術とエネルギーをフル活用する以外に道はない。
これが、ソニーのIT戦略である。
こういう流行語を本当に理解しないで、時流に遅れまいと口にする輩が多すぎる。・・・よく理解もしないで、言葉だけ躍らせても、百害あって一利なしである。(中村末広著「経営は「1・10・100」196ページ)
「ソニーの遺伝子を受け継ぐ「創造」の伝道者が初めて語る成功の法則」と言うサブタイトルを帯に付けたこのソニー中村研究所の中村末広所長(元ソニー副社長)の本だが、先日の講演で中鉢社長が紹介していたので読んだが、一昔前の製造業の改革の話で、トヨタ・ウエイを知る人には、如何にソニーが時代錯誤の遅れた会社であったかと言うことが良く分かる。
著者の見解は、20世紀の大量生産型の製造業の話で、イノベーションの部分では参考になった所があったが、これがソニー社員の研修に使われているようだが何をかいわんやである。(もっとも、本の出版が2004年4月23日だから、タイムラグで現実は変わっているかもしれない。)
色々異論はあるが、冒頭部分の錯誤ぶりに限って私論を述べたい。
選択と集中だが、自社の得意分野であるコア・コンピタンスに経営資源を集中して、それ以外の分野においては、売却したり外部委託(アウトソーシング)するとの理解が大方の常識だが、
中村所長は、タイの工場を閉めてマレーシアの工場に生産を集中すると言った地理的な集中を言って、生産は出来るだけ消費者に近い所に分散すべきだとの持論を展開している。全くナンセンスである。
このソニーの選択と集中については、成長戦略がなかったと中鉢社長がいみじくも言わざるを得なかったが、あのストリンガー中鉢体制に移行してからは、この「選択と集中」戦略こそがソニーの最優先の経営課題になっている。
差別化の最たる戦略的製品であったロボットをトヨタに売り、ソニーが社運をかけて開発した筈のゲーム機用MPU「セル」を含むシステムLSIの製造工場を東芝に売ってしまったのは何故だったのか。あえて、コモデティ化してしまって競争の激烈なコンシューマー・エレクトロニクス等コア・コンピタンスに経営資源を集中したかったからである。
アウトソーシングについては、経営が大変だから安い外部に外注して従業員を解雇するなどと言うのは間違いで、売れるものがあれば出来るだけ自分たちで守り続けて行くべきだとして、飯炊きを外国人にやらせている店に負けて子供を解雇せざるを得ない寿司屋の話をしているが、グローバル時代のアウトソーシングは、そんな次元の話ではない。
「Made in America」のMITチームのスザンヌ・バーガーが、2005年に、著書「グローバル企業の成功戦略」で、ソニーを名指しにして、
「古いモデルの固守には危険が伴う。統合の協働効果を盲信した結果、機能ごと、製品ごと、工程ごとの評価――自社が最も特異としているのは何か、そして、国内国外のどのサプライヤーが自社より優れているか――を怠った企業は、やがて苦境に追い込まれる。
ソニーのデジタル音楽プレーヤーは、本当に、ソニー配信の音楽を聴けるだけで良いのか? ハイエンドのVAIOの生産は、本当に、低価格で台湾のODMに委託できないのか?」と言っている。
既にiPodに世界制覇された今では前者は消えてしまい、後者は既にソニーの台湾業者等へのアウトソーシングは進んでいる。
タプスコットとウィリアムズが「ウイキノミクス」で、閉鎖的で階層構造で価値を創造する一体型の多国籍企業は過去の遺物と言っているが、前世紀の製造業の成功体験を後生大事にして、過去のシガラミに呪縛されていればされているほど時代に取り残される。
ソニーの改革は、ワンテンポもツーテンポも遅いのである。
ところで最後の「IT化」だが、これが現状ならソニーのIT認識が如何に時代錯誤かと言うことなので、コメントも無意味であろう。
同じような感じを、中鉢社長が立花隆氏との対談で、出井氏が導入したEVA経営を非難していた時も感じたのだが、やり方が悪かったり自分の理解不足を棚に上げて良く言うなあと思う。
ここでは、オーバースペックでWiiにコテンパンのPS3へのコメントに止めたい。
ウイキノミクスの時代の今日では、顧客を筆頭に総てのステイクホールダーを巻き込んだグローバルベースでのマスコラボレーションが進行している。
事典のウイキペディアやリナックスが典型的だが、世界の企業は、このインターネットを使ったオープンソースのマスコラボレーションを活用して大変な成果を上げている。
立花氏が言っているのだが、東大生産技術研究所に、このPS3の活用方法の開発を依頼すると素晴らしいアイデアが生まれる筈と助言している。
私は、それよりも、ソニーがPS3の秘密技術情報を開示して、総てのユーザーを糾合して、如何にこの途方もない能力を持ったPS3を活用出来るかを世に問うことだと思っている。
喉から手が出るほど技術情報の欲しいマイクロソフトが喜ぶかも知れないが、しかし、そのマイクロソフトの優秀な社員を含めて腕に自信のある世界中のITエンジニアが覆面でPS3の更なる開発に馳せ参じる筈である。
ソニーのエンジニアではタカが知れている。世界の俊英を開発チームに巻き込むのである。そこまで世界の製造業は進んできているのだ。
もう一度言うが、ソニーの技術力はソニーの社内だけでは処理出来ないほど進み過ぎており、ソニーのエンジニアや経営者だけでは対処できないほどのエネルギーを持っているのである。
爆発させるためには、ウイキノミクス時代のグローバルベースのIT技術とエネルギーをフル活用する以外に道はない。
これが、ソニーのIT戦略である。