熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

創造性を生むのは「経験×意欲」・・・茂木健一郎氏

2007年09月14日 | イノベーションと経営
   創造性は、脳の記憶のシステムの働きの一部分であって、その組み合わせが多ければ多いほど創造性は豊かに育まれる。
   したがって、経験と知識の蓄積が必要で、その為には長生きすることが大切であり、創造性は若者の特権だと言うのは正しくない。ダーウインもカントもパスツールも偉大な仕事を成し遂げたのは年を取ってからである。
   エコシステムにおいても、サステイナビリティが重要であり、アジアの熱帯雨林は歴史が長いので、動植物の多様性が一番豊かである。

   イノベーションを生むためには、豊かな創造性を育むことだと言って、脳科学者の茂木健一郎氏が、イノベーション・ジャパン2007の基調講演「脳と人間」で、こんな話をした。東京国際フォーラムB7会場は超満員の盛況であった。
   ノーベル賞学者湯川秀樹博士は、幼少の頃から論語などの素読を行うなど若い時から大変な教養人であったが、この知識の豊かさがノーベル賞の発見を生んだのであって、その逆、ノーベル賞を貰ったから教養人になったのでは絶対ない、と強調し、脳に記憶された経験と知識の豊かさが如何に大切か、そして、その記憶の豊かな組み合わせの多様性が創造性を生むのだと言うのである。

   イノベーションへの発想は、異なったものの結びつきによる組み合わせから生まれるので、サステイナビリティ・持続可能性がキイワードである。そして、この複雑怪奇な社会を理解しようとする好奇心をもつことが大切である。
   ケンブリッジのトリニティ・カレッジで勉強したが、ここは変人の集まりで変人でなければ生きて行けず、この変人達が30人以上のノーベル賞学者を輩出してきた。新しい価値あるものを創造する為には、多くの変人を組み合わせることが出来る社会システムが必須だと言うのである。
   個人の経験知識の豊かさのみならず、異質な芸術や学問、あるいは多岐多様な異文化の遭遇が多様性を育み、創造性を爆発させる。
   これは、フランツ・ヨハンソンの「メディチ・インパクト」の異文化の交差点理論と同じ考え方であるが、異質を総て同質化しようとする日本の教育とは程遠いのが面白い。

   ところで、年寄の経験・知識に価値があるのだと言っても元気がない。
   これは、知識が邪魔をするのであって、先入観や固定観念を排除しなければならない。
   創造性を生むのは、経験×意欲の函数で、経験を豊かにするのみならず、高い意欲・高いビジョンを保ち続けることが大切である。
   会社経営の成功は、トップの意欲・ビジョンが、織田信長のように青天井であること(ただし現実的である必要がある)が大切だが、
   今の日本に必要なのも、技術が十二分にあるのだから、このオプティミズムであり、高い意欲とビジョンを持ってワクワクするような気持ちを醸成しない限りイノベーションなど生まれないと言うのである。

   ところで、茂木氏の面白い指摘は、日本の目指すべきイノベーションである。
   トヨタの生産方式と日本のコンビニのきめ細かいサービスとは、同根の日本人のDNAである。
   創造性は、一人の偉大な天才だけが生み出すのではなく、トヨタのカイゼンのように、多くの人々の知恵と経験の蓄積、創造性の大衆化と民主化が大切で、この日本の特質を普遍化してイノベーションを追求して世界に輸出しよう。
   あのiPodさえも、個人の天才性を重視するアメリカながら、real distortion manのスティーブ・ジョブスが生んだのではなく、多くの社員の民主的な知識・経験・改善などがあったればこその筈であると言うのである。

   そうすると、出る釘を叩き、同質化してスペアパーツばかりばかり造り続ける日本の教育もそれなりに価値があるのであろうかと思いたくなるが、
   何れにしろ、創造性を育むためには、多様性が必須であるので、異質な多くの組み合わせを生む学問や芸術、そして文化文明が遭遇する交差点を、自分の中にも、社会の中にも出来るだけ多く豊かに作り出すことが大切なのであろう。

   茂木先生の話では、日本の少子高齢化社会の高齢化の部分も捨てたものではないと言うことになる。
   時代がどんどん前に進んでいるのだから、退場した年寄がでしゃばってしゃしゃり出ることはないと思うが、考え方によっては、この豊かな経験と知識をフル活用して日本を活性化するのも有効かも知れない。
   老人が生甲斐を感じて社会貢献によって元気になれば、医療費の軽減にもなり、それに、智恵と経験による社会インフラへのイノベーションが進めば一石二鳥である。
   
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