熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

現下の世界経済不況をどう考えるか

2008年12月16日 | 政治・経済・社会
   アメリカのサブ・プライム問題に端を発し、対岸の火事だと思っていた世界不況の波が、比較的軽微だと看做されていた日本経済を直撃して、解雇による雇用不安等で急速に表面化し大変な経済社会問題となって、政治まで迷走している。
   日本のお家芸とも言うべき製造業が、自動車や家電を皮切りに、世界的な技術を誇って市場を占拠していたハイテク製造業までリストラの波に翻弄されており、輸出に至っては、アメリカやヨーロッパのみならず、快進撃を謳歌していた中国やインドなどの新興国でさえ経済の失速は避け得ず、その深刻さは、時間が経つにつれて加速度的に悪化し続けている。
   
   大恐慌の様相を呈してきたこの経済不況も、必ず回復して好況となるので、今、優良会社の株を買って置けば大儲けできると、かっての竹中大臣のような口ぶりで説得されて、それを信じて買った筈の企業の株が、未だに底が見えず、どんどん下落を続けており、目も当てられないような状態になっている団塊世代の退職者が結構いると聞く。
   振り込め詐欺の被害者も多いが、証券会社や銀行に勧められて、退職金を注ぎ込んで苦しんでいる人が多いと言うのだが、GMなどのビッグスリーさえ破産が取り沙汰されている昨今では、そんな株も紙くずになる可能性さえある。現に、隆盛を極めていた自社株に投入して、倒産のために、401kで積み立てた老後の資金をパーにしたアメリカ人も多い。
   
   ところで、セミナーや討論会などで、今回の世界的経済不況について専門家や学者の意見を聞く機会が多いのだが、大半は、希望的観測が過ぎるのか、比較的楽観論が多くて、これまで、峠を越したと何度も聞いたのだが、益々、経済は悪化の一途を辿っている。
   そうでなければ、未だにマルクスの亡霊を背負っている学者がいて、性懲りもなく資本主義の終焉を説き続けている。アメリカ資本主義の没落と資本主義そのものの没落とは別物なのである。
   いずれにしろ、雇用問題で苦渋をなめている若者たちに、小林多喜二の「蟹工船」人気が広まり、マルクスの「資本論」を読むものが多くなっていると言うのは面白い現象である。

   私自身は、この大不況も、景気循環の一環で、コンドラチェフ循環(50年周期)の不況局面だと思っている。
   巨大なイノベーションであったIT革命が2001年に一時頓挫し、今回、更に、IT,デジタル化にバックアップされたファイナンシャル・エンジニアリングで頂点に達した金融が崩壊し、知識情報産業社会における牽引車たるITと金融革命と言う大きな産業革命的な長期波動が、グローバルベースで下降局面に入ったと言うことである。

   今日の日経の「私の履歴書」で、小宮隆太郎氏が、ソローを引用して、経済成長は、人口または労働力の増加、実物資本すなわち生産財の蓄積、技術の進歩、と言う三つの要因によるとして、日本の経済成長力を確信して、池田勇人総理の所得倍増論に賛成したと書いている。
   今では、こんな議論をする経済学者がいるのかどうかは知らないが、キチン(40ヶ月)、ジュグラー(10年)やクズネッツ(20年)などの短中期の景気循環では、これらの3要素が互いに呼応するのだが、コンドラチェフ循環では、最後の技術の進歩であるイノベーションが最も重要な役割を果たす。
   この説に従えば、次の巨大な、かっての蒸気機関や電気や内燃機関やITなどと言った様な革命的なイノベーションが起こるまでは、大きくて長期的な経済の好況局面は現れないと言うことである。
   したがって、私自身は、今回の世界的大不況の闇は非常に暗いと思っている。
   
   さて、日本における今回の大不況をどう考えるかと言うことだが、同じ日経の「日本経済に3っつの危機」と言う記事で、日産のカルロス・ゴーン社長の「日本経済はきわめて危うい」と言う見解を紹介している。
   先日のブログで書いたゴーン社長の話と呼応するのだが、信用収縮などへの対策を打たずに、このまま事態を放置しておくと、日本経済のけん引役だった自動車産業などの製造業が大きな打撃を被ると言うのである。
   急激な信用収縮で長期の投資資金のみならず足元の運転資金さえ枯渇、深刻な需要減退、急激な円高、と言う3っつの要因が作用して、場合によっては、日本経済に壊滅的な打撃を与えると憂慮している。

   非常事態であるから、政府の役割の増大は理に適っていると、これらの深刻な問題に対して政府の積極的な働きかけを求めているのだが、バブル崩壊前の日本ならいざ知らず、体力が疲弊し国民に袋叩きに合っている日本政府に何が出きるのか。
   
   長くなったので、私自身の日本経済に対する2~3のコメントだけ記すことにする。
   円高の問題だが、日本経済には潜在的に強い経済成長力が存在していた故に、円高政策を取るべきであったのに、日本は、失われた10年の間、徹頭徹為替介入して円安基調を貫いたのが最大の失策であり、この為に、企業の競争力の強化とイノベーション力の発露を完全に封殺してしまった。(劇薬を仰ぐべきであって、そうしておれば、今、1ドル80円でも十分に対応できていた筈。このブログで何度も主張した見解)
   一頃、ミスター円と言われた円安政策の責任者であり推進者であった榊原英資教授が、今になって「強い円は日本の国益」などと言う本を堂々と出して売れる日本は、良い国なのか悪い国なのか。
   尤も、罪と罰を別にすれば、この本の見解には、それほど異存はない。

   もう一点述べたいのは、小泉内閣の時に、小泉・竹中チームが取った市場原理主義に近い経済政策が、現在の深刻な非正規雇用者の問題を深刻化させた元凶だと言うこと。
   長いバブル崩壊後の不況で、まともな就職先を見つけられずに社会に放り出された有能な若年を放置したままで、弱肉強食の市場原理主義経済政策を推し進めて、企業に合理化再建を強要し、更に、立ち上がれなかった弱い労働者を非正規雇用社員に追い込むなど、雇用の二重構造の溝を深刻化させたたこと。同じことが地方経済の弱体化をも招き、健全な中小企業構造を崩壊してしまったこと。
   一時、日本経済が回復して長期好況(?)を継続できたのは、何百万人と言うワーキング・プアを踏み台にした経済の二重構造あったればこそで、
   それが、経済が壊滅的な不況局面に入ると支えきれなくなったと言うのが現在である。政府は、この問題の解決には、万難を排して取り組むべきである。

   公共投資など需要創出策についても書きたいと思ったが、稿を改める。
コメント
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