熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ビル・タンサー著「クリック!」~「指先」が引き寄せるメガ・チャンス

2010年11月02日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   ネットユーザーが、パソコンをクリックしながら匿名でインターネットを通じて総てを語っているので、この膨大な数の日常的なネット行動に関する「匿名の資料」を分析することによって、行動の一つ一つを残らず検証さえすれば、「我々自身が何者であるのか」「我々が何を考えているのか」、気味の悪いほど明確な実像が、まるでドミノを倒すように次から次へと明らかになる。
   このことを確信して、インターネット情報を徹底的に分析してトレンド予測をすることで一世を風靡したビル・タンサーが、科学的なマーケティングのあるべき姿を説き、データベースに眠る金脈を掘り起こすことを進めているのが、この本「クリック!」である。
   原書のサブタイトルが、「何百万もの人々が、オンラインで何をして、何故それが重要なのか」と言うのだが、和訳本の副題「指先が引き寄せるメガ・チャンス」とは、「トレンド予測の伝道師」たる著者の意図を言い得て実に妙である。
   しかし、この金脈を掘り起こすこと、すなわち、ネットユーザーが匿名ですべてを語るデータを如何に読み解くのかが至難の業で、その泣き笑いの経験を紹介しながら、自分で習得したテクニックなどを開陳している。

   私が興味を持ったのは、イノベーションと同じで、その新しいトレンドをキャッチして先導して行くトレンドセッターとも言うべきイニシエイターが、誰なのか、そして、そのトレンドがどのようにして普及発展して行くのかと言うことである。
   これに対して、タンサ―は、エベレット・ロジャーズの「イノベーションの広がり」説を踏襲しながら、インターネットでも、同じ傾向が表れていることを、色々な形で検証しており、非常に興味深く読んだ。

   ロジャーズが、テクノロジーが市場化されてからの時間経過と、それを採用する人たちの分布をプロットしてみると、その曲線は釣鐘状になっていたので、この曲線からテクノロジーの広がりの特性を検証して、キーとなる5つのセグメントに分類した。
   曲線の一番左端から、「イノベーター」「アーリーアダプター(物好き)」「アーリーマジョリティ(いち早く後を追うその他大勢)」、曲線はここで頂点に達して以降は下降して行く、「レートマジョリティ(のんびりと後を追うその他大勢)」「ラガード(無関心派)」であり、この中でも、最初の2つのセグメントが重要な働きをする。
   イノベーターは、新しいアイデアをキャッチして市場に導入するのに決定的な役割を果たすのだが、宣伝広告のターゲットとしてマーケティングで注視すべきは「アーリーアダプター」で、新しい商品を「将来性のあるイノベーション」の存在から、実際に世に広く普及する存在に仕立て上げる立役者であり、殆どのケースで、企業にとって最高のオピニオンリーダーになると言うのである。
   「イノベーター」には、ある特定の市場にどんな製品やテクノロジーが有効なのかを先読みする能力があるのに対して、「アーリーアダプター」は、後から新技術を受け入れる大多数の人たちの目と耳を持ちながら、市場でのその技術の普及に影響を及ぼす力を持っているのである。
   
   それでは、このアーリーアダプターをどうして探し出すのか。
   ユーチューブの爆発的普及とも関連するのだが、ユーチューブで何か面白い動画を見たあと、その動画へのリンクをメールで送信して、このサイトの噂をあっという間に広がると言った現象などから、タンサ―は、SNS→eメール→グーグルの順でブームが起こると言う。
   SNSからアクセスする「イノベーター」、メールで面白い動画クリップの存在を教えあう「アーリーアダプター」、そして特定の動画クリップを検索する「アーリーマジョリティ」による、新しいオンライン・テクノロジーの普及が視覚化できると言うのである。

   ユーチューブにアクセスするユーザーを、PRIZMと言う分類法によって抽出すると、一般的に娯楽やテクノロジーの「アーリーアダプター」と定義できる人たちは、所謂、「ボヘミアン・ミックス」で、「もっともリベラルなライフスタイルを楽しむ上昇志向の強い都市生活者で、現代的な住宅に住み、ニュースをネットで読み、ネット上のギャンブルが好きで、新しいテクノロジーに飛びつき、ファッションやライフスタイルの世界の流行の仕掛け人である傾向が強い」と言う。
   これに、都市生活者で、富裕で社会的に地位が高く、法律、医療あるいは経営的な仕事についている「カネと頭脳」のセグメントと、インターネットを使ってできることを「さらに活かす」ことに興味を持っている「若きデジタルエリート」を加えれば、マーケターがターゲットとすべき「アーリーアダプター」像は完結する。

   タンサ―は、マーケティング手法としてのトレンド予測として、インターネットで蓄積されている膨大なデータが、如何に貴重な金脈であるかを説いているのだが、私は、タンサ―の理論を活用して、イノベーターやアーリーアダプターを、インターネットを通じて如何に経営全体に取り込んで、経営戦略を革新して行くのか、を考えて行くことが、ICT革命時代の経営のあるべき姿であると思っている。 
   その意味でも、私は、このブログで、オープンイノベーションをアメリカ型イノベーションの幻想だと切り捨てている伊丹敬之教授の「イノベーションを興す」を、時代錯誤だと叩いたのであり、ICT革命が何たるかを理解しなければ、経営学など全く意味をなさないと思っている。
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