熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

東大寺大仏・天平の至宝展~東京国立博物館

2010年11月09日 | 展覧会・展示会
   上野の国立博物館に、東大寺の宝物が展示されていると言うので、出かけて行き、午後の時間をたっぷり、国宝や重要文化財の鑑賞で過ごした。
   パンフレットに載っている八角燈籠は、大仏殿の正面に立っているので、いやと言うほど見ているので、珍しくも何ともないのだが、良く知っている誕生釈迦仏立像や良弁僧正坐像や重源上人坐像などの国宝は、見たことがなかったので、興味を持った。
   私の印象では、東大寺に行って、簡単にアクセスできる国宝は、国宝仏が堂内に犇めく法華堂や四天王のある戒壇院くらいで、他の宝物には中々お目にかかれないので、良い機会であった。
   参観者は、高校生の団体などの大波が通過すると、かなり、空いていて、自由に、展示物にアプローチできるので、外国から有名な作品が来てごった返す雰囲気とは違うので助かる。

   やはり、大仏殿の大きな写真をバックに置かれた八角燈籠のある大広間の展示室が圧巻で、その燈籠の両脇に、国宝の良弁僧正坐像と僧形八幡神坐像が安置されていて、丁度正面の高台から望むと、中々壮観である。
   良弁僧正の精悍な骨太の素晴らしい坐像と、今出来上がったばかりのように鮮やかな極彩色の八幡神坐像の美しさは格別で、息を飲むほど美しい。
   この高台の部屋の背後には、重要文化財の伎楽面が10面展示されていて、やはり、胡人のイメージの濃厚なエキゾチックな造形が異国情緒たっぷりで、当時の国際都市奈良の面影を忍ばせていて興味深い。
   この部屋を左に回り込むと、あの有名な、誕生してすぐに右手を高く上げて左手を下に差して「天下天上唯我独尊」と第一声を発したと言い伝えられている誕生釈迦仏立像と灌仏盤が展示されている。釈迦立像がかなり大きいのにびっくりするのだが、金色に輝いていて実に新鮮である。
   灌仏盤の外側には、珍しい線描画が描かれていて、照明が当てられているのだが、非常に見辛くて、壁面のビデオの映像説明が参考になる。

   八角燈籠の羽目板など壁面には、素晴らしい仏像や獅子などの浮き彫りが施されているのだが、一面だけ右下が歪に歪んだ国宝の八角燈籠火袋羽目板が展示されていた。
   間近で見ると、その造形の素晴らしさが実に良く分かって、当時の技術の凄さのみならず、その意匠デザインの卓抜さなど繊細なディテールに至るまで感激を覚える。
   良弁僧正は、どうしても歌舞伎の良弁杉前の僧正をイメージしてしまうのだが、元は朱色であったのであろうか、褐色の着色が残っている袈裟衣を身にまとって錫杖を旗手の鞭のように持って端座する堂々とした偉丈夫な姿は、見る者に畏敬の念を起させる。
   鼻筋が真っ直ぐ通って大きな耳が印象的な輪郭のしっかりした意思の強そうな顔と太い首が、更に、その印象を強めている。
   反対側にある八幡神は快慶の作品だが、艶々とした肌色も鮮やかな輝くような顔にくっきりと紅色に描かれた引き締まった口元、それに、濃い緑と赤い色で描かれた花模様が飛び散る透き通った襦袢のような袈裟を纏った僧形であるから、とにかく、実に艶めかしくて、その新鮮さにはびっくりする。

   興味深かったのは、法華堂の不空羂索観音菩薩立像光背で、この法華堂の本尊である不空羂索観音は、私の最も好きな仏像の一つで、奈良に行けば、必ず拝観しているのだが、光背だけ見ると、かなり小さいのにびっくりした。
   いつも、下から仰ぎ見ているので錯覚をしていたのかも知れない。
   横の壁面で、この不空羂索観音の宝冠の説明ビデオを流していたが、実に美しくて、その造形の妙は脅威でさえある。
   実は、この宝冠だが、不心得者が、二月堂のお水取りのドサクサに紛れて、恐れ多くも、不空羂索観音に梯子を架けて盗んだことがあるのである。

   この期間には、正倉院の御物も一部展示されていて、その中の国宝である伝聖武天皇の賢愚経だが、書の良さが分からない私にも、その美しく雄渾な筆跡には感動を覚える。
   丁度、本館二階の国宝室にも、偶々、賢愚経断簡(大聖武)が展示されていて、素晴らしい。
   昔、台北の故宮博物館で沢山の素晴らしい書を見て感激したのを思い出した。

   もう一つの国宝は、80歳を超えた晩年の重源上人像で、リアリズムの結晶と言った感じで、重源上人が、正に、前に座っている。
   前に突き出した痩せた顔に、下唇を上にしてしっかり結んだ口元が印象的で、数珠をしっかり握りしめて端座している姿は、孤高でさえある。
   
   閉館前に、本館に出かけて一回りしたが、この時間には、殆ど、参観者が居なくて、薄暗い森閑とした博物館の佇まいは、実に寂しい。 
   
   

   

   
コメント
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