熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

シンシア・モンゴメリー著「ハーバード戦略教室」

2014年09月18日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   「世界中から集まるトップエリートたちへの秘密講義を全公開」と言う触れ込みのハーバード大教授の経営戦略論。
   しかし、内容は、イケアやグッチ、アップルなどと言った数社のエクセレントカンパニーを例示しながら、シュンペーターやポーターを引き合いに出して戦略論を論じているのだが、特に特別斬新な理論であるわけでもなく、私には、それ程新鮮味は感じられなかった。
   尤も、現在の企業経営者は、須らくストラテジストとしてのリーダーでなければならないと云う視点に立って論じているので、実際に自分たちの企業を直視し、改めて、企業戦略を構築し直して、経営の改善向上を図ろうとするためには、どうすれば良いのか、非常に役に立つツールを提供している。

   冒頭で、戦略とは、決まりきった方策でも問題の答えでもなく、むしろ、企業の競争力や独自性の土台となる価値創造システムであり、閉じたものではなく、開かれたものであるべきで、進歩し、発展し、変化し続けるひとつのシステムだと指摘している。
   どんなに優れた戦略を立案しても、永遠には続かないので、ストラテジストであるべき経営者は、他を大きく引き離す決定的な優位を確立すべく、常に変化し、企業価値を高め続けなければならないと言うことである。

   
   戦略の目的は、長期にわたって持続できる競争上の優位を獲得することだとされてきたが、瞬時に激変する激烈な競争下の現在の経営環境においては、そのような優位が持続して行く筈がない。
   従って、競争上の優位はいずれ失われることを前提にして、戦略は変化するものだと言う考え方に立って、堅実で明確な良い目標を立てて、その実現のための価値創造システムを構築して、果敢に経営を行うことが重要だと説くのである。

   これは、先日、このコラムでレビューしたリタ・マグレイス著「競争優位の終焉」で説かれていた、
   ”企業の持つ優位が、競争を通じてあっという間に消えてしまう「超競争」時代に突入してしまった以上、これまでのように「持続的競争優位」にしがみ付くのではなくて、「一時的競争優位」を前提にした経営戦略への転換が急務であり、そのために、イノベーション経営志向を目指したダイナミックな経営を推進すべし”と大胆に提言した理論と非常によく似た考え方であり、両書を併読すれば、HBSの経営戦略論の一端が垣間見えそうで興味深い。

   企業の成功と存続にとって何より重要なのは、その企業が何故存在し、どのようなニーズを満たそうとしているのか、堅実で明確な良い目標を持っているかどうか、企業のその目標如何が、ファーム・エフェクトの差を大きく分けるのだと説く。
   この本では、卓越した経営資源を活用すべく家具業界に進出するも、手痛い失敗をした日用品の巨人マスコ社をケースにして講義を始めていて、インダストリー・エフェクトが非常に非協力的で極めて収益性の低い家具業界で、成功を収めているイケアについて、かなり詳細に論じている。
   

   このブログでも、R.ユングブルート著「IKEA 超巨大企業、成功の秘訣」をレビューしたり、イケアについて論じて来たので、目新しいトピックスではないのだが、引用すると、
   
   ウォルマートのサム・ウォルトンとイケアのイングバル・カンプラードの共通点は、どちらも田舎暮らしの中で、経済的に余裕のない客を喜ばせる術を学び、ローコストの小売業と言う計画を育んでいたことで、更に重要なのは、利益を奪い合うのではなくて、「商品の価値を高めることが大切だと理解していたことである。
   イケアは成長する過程で、安く出来る家具をデザインして供給業者のコストを削減し、組み立てキット式のフラットパック・システムで配送と組み立てコストを大幅に削減した。
   更に注目すべきは、独特なデザインとアプローチで、ブランドが通用し難い家具業界で知名度を上げ、ファッション性を高めて、一生モノと言う家具の概念を変えた。
   無料の託児所や安くて美味しいレストランら娯楽設備を併設して、家具の購入を億劫がる客を引き付けて長時間にわたって釘づけにして、楽しませながら安い家具や生活関連商品を買えるようにして、家具に関わる全てに価値を生み出し続けているのである。
   私は、昔、アムステルダムとロンドンのイケアに入って買い物をし、今でも使っているのだが、最近、イケア船橋に行ってみたら、随分雰囲気が良くなっていて、その進歩発展にびっくりした。

   「優れたデザインと機能性を兼ね備えたホームファニッシング製品(家を快適にするために必要なものすべて)を幅広く取り揃え、より多くの人が買えるように、出来る限り手ごろな価格で提供し、『より快適な毎日を、より多くの人に』」と言う素晴らしい目標を掲げて、今日あるような快適なイケア・トータル・システムと言うべき価値創造システムを構築して、日夜、更なる革新イノベーションの追求を続けていると言う。
    アメリカでSTORと言うブランドの家具業者がイケアを真似て開店したようだが失敗したとかで、中国でも全くイケアそっくりの店が出来たようだが、トータルでイケア・システムを構築不可能であろうから、泡沫に終わるのは必定であろう。

   さて、アップルだが、ジョブズは、シュンペーターの「創造的破壊」のメッセージを直観的に理解していて、アップルを、「創造的破壊」マシーンと化して、優れた製品を世に送り出し、製品の共食いが始まる前にまた次の製品を出し、懸命に後を追う他社を振り切って先頭を走り続けている。
   私が関心を持ったのは、著者が、イノベーションと表現せずに、ストレートに「創造的破壊」と言っていることである。
   また、別のところでも、市場の成長と収益のピークは、安定によってではなく、大きな変化によって齎されると述べていて、シュンペーターの「創造的破壊」の様な潮流の変化に乗ることこそが、競争優位を確立するための要諦であることを示唆している。
   かっては、わが日本のエース・ソニーが、創造的破壊の盟主であり、破竹の勢いのイノベーターであった。

   この本で、目標を支える価値創造システムの構築のために、「目標」を核とした伝統的アプローチである「戦略の輪」を使ってグッチなどの価値の創造システムを分析していて、参考になる。
   ハーバードは、私が学んだ講義方式のウォートンと違って、ケース・メソッドなので、このような戦略論を学ぶのには、非常に威力を発揮するのであろうが、本になると叙述が散漫になるキライがあるような気がしている。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする