熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

国立能楽堂・・・第57回 式能

2017年02月20日 | 能・狂言
   2月19日、国立能楽堂で、能楽協会主催の第57回式能が、開催された。
   HPによると、『翁』に始まり一日を通して上演される由緒正しい能楽公演 と言うことで、
   式能は江戸式楽の伝統を受け継ぐ由緒正しい方式による能楽公演で、公益社団法人能楽協会に所属するシテ方・狂言方全流儀が揃い、当代一流の能楽師が一堂に会する年に一度の貴重な舞台です。番組形式は"翁付五番立て"として、能の間に狂言を一番ずつ計四番を組み入れた構成となっています。最初に上演される『翁』は、各流儀の代表となる演者が毎年順番で演じることになっており、今年度はシテ方宝生流宗家・宝生和英が勤めます。
   
   私は、例年通り、通しでチケットを取得し、朝の10時から、夜の7時15分まで、鑑賞させてもらった。
   2012年からなので、これで6回目となり、これが、私の能狂言鑑賞の歴史でもある。

   当日の【番組】は、次の通りである。
第1部 能 宝生流『翁』宝生和英
     『鶴亀』前田晴啓
   狂言 大蔵流『毘沙門』大藏吉次郎
   能 喜多流『白田村』友枝昭世
   狂言和泉流『樋の酒』野村 萬
第2部
   能 金剛流『雪 雪踏拍子』豊嶋三千春
   狂言 大蔵流『左近三郎』山本東次郎
   能 観世流『花筐』観世銕之丞
   狂言 和泉流『苞山伏』野村万作
   能 金春流『土蜘』櫻間金記

   「翁」は、5年毎の5流派の輪番制なので、5年前の2013年の式能で、宝生和英宗家の「翁」を見せてもらっている。
   神がかりと言うべきか、演者が精進潔斎して臨むと言う神聖をおびた荘重な「翁」の舞台へは、途中入場禁止であり、能「鶴亀」と狂言「毘沙門」が終わるまで、インターミッションなしで連続して、2時間半近く演じられた。
   「鶴亀」は、はじめて観る能であったが、脇能ながら、神の出現はなく、玄宗皇帝がシテで、子方の鶴と亀が舞って皇帝に千年万年の寿命を授け、皇帝も、舞楽を舞って国家平安を祝い還御となると言うのが面白い。
   玄宗皇帝は楊貴妃に現を抜かして、安禄山の乱を招いて、人民を塗炭の苦しみに追い込んだのだが。

   能の「白田村」は、他流では「田村」だが、喜多流のみ「白田村」で、特に重く扱っていると言うことである。
   後場の勝修羅の「鬼神の征伐」、田村丸の霊として現れた後シテが、鈴鹿山の兇徒討伐の戦語りをして、勝利への観音の仏力を称えて舞う勇壮な舞と謡いの素晴らしさ。
   シテを演じた人間国宝友枝昭世師は、前日の能楽堂企画公演の「八島」の地謡を休演していたので心配していたのだが、大変な熱演で感動的であった。

   金剛流「雪」は、金剛流にしかない能で、しーんと静まり返った雪明りの中で、雪の精が純白の衣をひるがえして舞を舞うと言う実に清楚で美しい能である。
   こんなに若くて美しい雪の精でも、迷いを晴らしてほしいと僧に頼む。僧が仏縁を得て成仏するよう勧めると、喜んで、廻雪の舞を舞って静かに消えて行く。
   序ノ舞の途中、笛の音階が盤渉調に変わって、雪が降りしきると、足拍子は、すべて音を盗んでスカッと踏む、音を立てずに踏む実に優雅で美しい舞姿。

   観世流能「花筐」は、今回、謡を学んでいる人たちの最も期待していた能舞台なのであろうか。
   能楽協会の会長である観世銕之丞師の凄い舞台と言うことでもあろうが、私の座っていた脇正面の前列のかなりの人が謡本を広げて、熱心に聴いていた。
   ちらちら眺めるわけにも行かないのだが、どうも、舞台を観て舞を観るよりも、謡の方に集中している感じであった。
   丁度、勘十郎の本を読んでいて、文楽劇場の字幕ディスプレイに反対したのは、人形遣いたちで、自分たちの人形を観てくれなくなるのを心配したのだと言う話を思い出していた。
   この「花筐」は、何度か観ているので、比較的楽に観賞できた。

   最後の金春流の能「土蜘」も何度も観ているのだが、源頼光の土蜘退治と言う単純な話ながら、 土蜘と独武者との戦いや土蜘の精が蜘の糸を投げかけるシーンなど、スペクタクルめいた場面展開が面白い。
   この舞台では、斬られた土蜘の精は、直後、すぐに切戸から退場して行った。

   さて、狂言だが、まず、「毘沙門」は、翁・脇能に続く脇狂言で、祝言曲。
   毘沙門の面をつけて派手な衣装のシテが、鞍馬の毘沙門天の威徳などを語り、参拝者に土産物を取らせると言う単純な話。

   「樋の酒」は、野村萬、「左近三郎」は山本東次郎、「苞山伏」は、野村万作と言った今を時めく錚々たる人間国宝たちが、至芸を見せる素晴らしい狂言の舞台である。
   一番若い東次郎でも、もうすぐ、80歳。
   萬、万作兄弟は、85歳を超えていて、この矍鑠とした颯爽たる芸の凄さ奥深さは、何処から生まれ出でるのか、いつも、舞台を楽しませてもらって居ながら、驚異としか言いようのない思いに感慨しきりである。

   毎年、良く分からないながらに、鑑賞させてもらっているのだが、この式能の舞台だけは、随分、欧米などで、極上の舞台を含めていろいろな芸術舞台を見せてもらってきたけれど、絶対に引けを取らない遜色のない,日本芸術の華とも言うべき舞台だと思っている。

(追記)口絵写真は、能楽協会HPより借用。
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