熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

八月納涼歌舞伎・・・「盟三五大切」

2018年08月21日 | 観劇・文楽・歌舞伎


   この「盟三五大切」は、四世鶴屋南北が『東海道四谷怪談』の続編として書いた、並木五瓶の「五大力恋緘 」を脚色して加えた「忠臣蔵外伝」。
   凄惨な殺しの場など、南北ならではの世界が展開される生世話物の傑作だと言うのだが、落語の「お化け長屋」を上手くアレンジして、夜中に家主が幽霊になって化けて出て店子を追い出して店賃を巻き上げて回転を速める悪どい商売をすると言うドタバタ喜劇を挿入するなど、結構面白い。
   この家主くり廻しの弥助を演じる中車の、老練な惚けたコミカルタッチの演技が、冴えていて実に上手い。直球勝負の獅童と七之助相手であるから、余計にアンバランスが面白いのである。
 
   塩冶家の侍だったが御用金紛失の咎で勘当の身となった浪人の薩摩源五兵衛(元不破数右衛門 幸四郎)は、芸者の小万(七之助)に入れ込んでいるのだが、小万には、相思相愛の笹野屋三五郎(獅童)という夫がいる。源五兵衛は、名誉挽回し、亡君の仇討に加わるため伯父富森助右衛門(錦吾)が用立てた100両を借り受けるが、三五郎の罠にかかって騙し取られる。自分が騙されたことを知った源五兵衛は、鬼と化して、三五郎夫婦を追って、次々と殺戮劇を繰り広げて行く。
   三五郎は、源五兵衛から巻き上げた金100両を、父の了心(松之助)に渡すのだが、この金は、父の旧主:不破数右衛門の危急を救うためだったのだが、それを知らず、源五兵衛は、小万と嬰児を殺し、後悔するも既に遅し、小万の兄(家主)を殺している三五郎も自害、
   ところが、そこへ、塩谷の同志が結集して登場し、薩摩源五兵衛すなわち不破数右衛門を、高師直討ち入りに誘って旗揚げ。
   いかにも取ってつけたような結末だが、猟奇殺人鬼の不破数右衛門を、討ち入りの同志に加えると言う奇天烈さを、江戸の庶民は、どう観ていたのか。

   確かに、薩摩源五兵衛の繰り広げる凄惨な殺し場は、写楽などの歌舞伎絵を見ているような絵になるシーンの連続で、幸四郎の派手な見得や顔の表情など、江戸の浮世絵の世界の再現である。
   特に、薩摩源五兵衛が小万と嬰児を、愛しさ(可愛さ余って)憎さ百倍、殺戮のシーンは凄くて、正に、悪夢の絡繰り絵図さながらで、嬰児の首にくし刺しの刀を握りしめて引き抜こうとする小万の断末魔。

   幸四郎は、スマートゆえの線の細さは否めないが、やはり、天下の千両役者。
   ニヒルなヤクザの役を地で行く獅童の上手さ、進境著しい七之助の艶姿。
   それに、お母さん三田寛子によく似て来た橋之助が薩摩源五兵衛の付き人若党六七八右衛門を演じて正攻法の丁寧な芸を披露していて好感。

   歌舞伎の世界も、随分世代が新しくなったなあと思える舞台であった。
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