熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

インフレ下の最低賃金引き上げ

2022年08月03日 | 政治・経済・社会
   NHKは、「最低賃金 過去最大31円引き上げ目安示す 厚生労働省の審議会」と報じた。
   今年度の最低賃金の引き上げについて議論してきた厚生労働省の審議会は、過去最大となる全国平均31円の引き上げを目安として示しました。
   現在、全国平均で時給930円となっている最低賃金の引き上げについて、労使の代表などが参加する厚生労働省の審議会は、1日夜、全国平均で31円、率にして3.3%引き上げるとする目安を示しました。
   引き上げ額は昨年度の28円を上回り、最低賃金が時給で示されるようになった2002年度以降で最大です。
   目安通りに引き上げられると全国平均で時給961円となります。

   問題は、いくら最大の引き上げ額であろうと、日本のバブル崩壊後の失われた30年で、経済成長がストップして給与賃金が全く上がらず、日本の最低賃金水準は、世界的に見て、異常に低水準であると言う現実である。
   それが、やっと目標の2%インフレが実現できたと思ったら、意図していたディマンドプルではなく、コストプッシュの悪性インフレであって、そのインフレ下での最低賃金のアップなので、焼け石に水に近い。

   まず、
   今回の最低賃金の議論では、引き上げ自体に争いはなかったものの、引き上げ額をめぐって労使の意見が大きく隔たり、こうした中、過去最大の引き上げとなったのは物価の上昇、中でも生活必需品の値上がり幅が大きいことを踏まえ、最低賃金に近い賃金水準で働く人の生計の維持を重視したことが要因だと言う。
   より高い賃上げを要求する「連合」としては、「連合が目標として掲げる『誰もが時給1000円』の実現に向けて一歩前進する目安だが、最低賃金の近くで働く人の状況を考えると十分な水準には到達しておらず、引き続き早急に引きあげる必要がある。」というのは勿論だが、
   日本商工会議所の三村会頭は
   「今回示された目安の額は、家計に対する足元の物価上昇の影響が強く考慮される一方、企業の支払い能力が厳しい現状については、十分反映されたとは言い難い。最低賃金の改定による影響を受けやすく、新型コロナの感染再拡大で影響が懸念される飲食業や宿泊業、原材料などの高騰を十分に価格転嫁できていない企業にとっては、非常に厳しい結果だ」と指摘し、そのうえで「政府には価格転嫁対策を一層、強力に進めてもらうとともに、生産性の向上に取り組む中小企業を支援する施策に十分な予算を確保するなど、自発的な賃上げに向けた環境整備を強く求める」とコメントした。事業を革新活性化できない負け犬の遠吠えである。

   前述の議論を反復すると、日本経済の根本的な問題は、為政者経営者の無為無策、怠慢によって、経済成長に見放されて、バブル崩壊後、失われた30年間に、日本国民の賃金が下降はしても全く上がっていないことである。

   下記に示すのは、資料出所 厚生労働省 「毎月勤労統計調査」による
   常用労働者1人平均月間現金給与額 1947年~2020年 年平均
   

   別の日本経済の成長の鈍化と賃上げストップの状況をBBCの資料を借りて示すと、
   
   

   更に、日本の最低賃金水準が、世界的にも、目も当てられないほど低いことは、次表を見れば一目瞭然。
   

   デフレ・スパイラル脱却のため、日本銀行はここ何年も、金融をだぶだぶに緩めて「2%の物価上昇」を目標に掲げてきた。
   物価を徐々に上げることによって、消費や、投資が増し、給与が上がって経済を活性化させることが目的だったが、全く効果はなかった。
   日本の消費者物価は今年4月、ついに2%の上昇を達成した。しかし、政府や日銀の意図していた消費者などの需要増ではなく、コロナ禍やウクライナでの戦争などの外的要因によるエネルギーや食料品の高騰、原材料価格の上昇などで、コストプッシュによるインフレーションであった。
   このことは、前述したように賃金や給与所得の上昇なきインフレであるから、もろに国民生活を直撃して圧迫する悪性インフレである。
   従って、益々、日本国民にとっては打撃となり、生活条件が悪化する。財源は兎も角、これを見越せなくて、公的年金を引き下げた政府の財政政策が、如何に稚拙か分かろうと言うことで救いようがない。

   失われた30年、経済成長も所得水準の向上も策せず、無為無策、日本の舵を取ってきた無能なトップに立つリーダーの責任は、途轍もなく大きい。
   まず、企業を成長発展に導けなくてゾンビ企業化した経営責任者など、日本経済を再建なり成長に貢献できなかった企業経営の体たらく、
   賃金給与など所得水準を上げ得なかった責任の大半は、この日本の経営者の無能故だと言っても過言ではなかろう。

   自民党政権の無能ぶりは、30年の日本経済の停滞が証明しており論を待たない。アベノミクスに懲りずに、良く分からない新しい資本主義と称したキシダノミクスを掲げて、経済成長発展を策そうとしているが、日本経済は、最早、そのような小手先の安普請では再建不可能である。
   以前に論じたが、例えば、資産課税を強化徹底し、累進税を加速して、強力に所得の平準化を徹底的に進めて需要を喚起するなど、日本経済の屋台骨を揺するほどの抜本的な改革を実施しなければ、ダメである。
   日本は、明治維新、敗戦、石油危機と円高等々、国難とも言うべき苦難に直面する度毎に、トインビーの説く「挑戦と応戦」によって活路を見だしてきた。
   日本全体が、茹でガエル状態で下降一途の境遇にありながら、太平天国に胡座をかいている今日のような状態では、失われた40年になり、50年になり、沈み行くのみである。

   毎年、季節になると、2円や3円を上げるか上げないか、労使が侃々諤々口角泡を飛ばす、このセレモニーの哀れさ悲しさ。
   貧乏人は麦を食えと言って所得倍増計画を推し進めた池田勇人、
   金権政治だと揶揄されながらも、日本列島改造論を推進した田中角栄、
   今昔の感である。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする