熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

エマニュエル・トッド:ウクライナ戦争で漁夫の利を得るのは中国

2022年08月31日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   先に、エマニュエル・トッドは、「第三次世界大戦はもう始まっている」で、ロシアの経済力はエンジニア力で評価すべきだという見解を示していて、これについてレビューした。

     トッドが論じているGDP評価の米ロの経済力比較が、例え間違っているとしても、GDPベースで、アメリカの14分の1の経済力では、ロシアが、どんなに足掻いても太刀打ちできるはずがない。

   しかし、面白いのは、トッドが、米国産業の脆弱性と中国製品への依存で興味深いことを語っていることである。
   中国には、戦争が長期化するなかで、ロシアを利用して、アメリカの武器備蓄を枯渇させることで、アメリカの弱体化を図るという選択肢がある。巨大な生産能力を持つ中国からすると、ロシアに軍需品を供給するだけで、アメリカを疲弊させることが出来る。と言っていることである。

   一説には、今回のウクライナ戦争で、最も利益を得るのは、アメリカの軍産複合体だと言われている。
   武器弾薬を、どんどん、ウクライナに送り込めば、アメリカの軍需産業が活況を呈するのである。

   しかし、中国にしてみれば、ロシアに、仮想敵国のアメリカを叩くだけ叩かせておいて疲弊させて、
   同時に、ロシアが戦争で消耗して弱体化して、経済的な従属国として転げ込めば、中国にとっては一挙両得であり、漁夫の利を得ることが出来る。
   半導体も含めて重要な工業生産に必用なパーツなど、中国がどこまでロシアの工業生産をサポートできるかにかかっているが、中国のロシア経済支配の趨勢は避け得ないであろう。
   中国には、核戦争に至らなくて、火の粉が飛んでこなければ、ウクライナ戦争が長引けば長引くほど良い。
   中国が、世界平和を標榜したこともないし、ウクライナ戦争終結や、その仲裁などに消極的なのは、その辺にありそうな気がして仕方がない。

   一方、トッドが、「第三次世界大戦はもう始まっている」と言うウクライナ戦争だが、もう、既に、これまでの代理戦争とは違って、米ロ大国同士の戦争となっている。
   米ロ両国にとって、この戦争に敗北することは、国家の威信と存亡がかかっている。

   難しい問題は、アメリカがどこで矛を収めるかである。
   現状なり、ウクライナ分割状態で、アメリカが収拾を図ることは、アメリカの威信を傷つけ、アメリカ主導の国際秩序自体への破壊であるからあり得ないであろうし、ロシアが窮地に追い込まれれば、国家存亡の危機に瀕するので、核戦争の勃発の可能性を否定できない。
   第二次世界大戦以降、世界各地で戦争を続けてきたアメリカだが、世界秩序の維持修復には悉く失敗してきている。
   形は違っているが、ヴェトナムやイラクやアフガニスタンのように、収拾が付かずに、ヨーロッパの火薬庫として、長く尾を引くような気がしている。
コメント
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