熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

WSJ:高失業率に悩む欧州の若者

2011年08月03日 | 生活随想・趣味
   WSJの日本版を見ていると、「イタリアとスペインめぐる不安高まる―両国の国債相場下落続く」と言う記事と並んで、標記の若者の高失業率についての記事が目についた。
   ギリシャに続いて、ポルトガル、アイルランド、それに、経済規模の大きなEUの主要国でもあるイタリアとスペインの国債、金融市場が2日も大きく下落しており、ユーロ圏で最も脆弱な国の部類に属する両国に債務危機が波及する懸念が高まっていると言うのだが、その背後には、目も当てられない程若者の失業率が高いと報じている。

   口絵は、WSJから借用した失業率表だが、「ユーロ圏17カ国では、景気回復が2009年第2四半期から始まっているにもかかわらず、15歳から24歳の求職者の失業率は20.3%と、およそ5人に1人が職に就いていない。」と言うのである。
   その中でも最悪はスペインで45.7%、続いて、ギリシャ37.8%、イタリア27.8%、アイルランド26.9%、ポルトガル26.8%、と、特に財政状況が悪化してデフォールトの懸念される諸国の若者の3分の1から半分までもが失業していると言う状態で、全く、お先真っ暗だとしか言いようのない事態に立ち至っている。
   先のギリシャの救済策などは、単なる延命策に過ぎず、ギリシャ国民の生活を根本的に大幅ダウンさせて、国家財産を捨て値で叩き売っても、ギリシャの再興は難しいと思っているのだが、他の諸国も似たり寄ったりで、極めて苦しい。
   
   例えば、イタリアの場合だが、WSJは、「欧州連合(EU)指導部や投資家は、この10年間にわたってイタリア経済を停滞させてきた深刻な構造的弱さ―硬直した労働市場から重税まで―を是正するための新たな措置を用意するよう、イタリア政府に求めている。しかし、同国が実行できる余地はほとんどない。同国の公的債務の対GDP(国内総生産)比率は120%に上り、世界最悪の部類に入っているのだ。」と報じている。
   米欧での経済指標の悪化と債務危機を背景に、ユーロ圏南部諸国のリスクの高い諸国の国債に対する需要がほとんどないと言うのだが、
   財政赤字を抱えて、この赤字を埋め、国債の償還を行うために絶えずアクセスできる新規資金を必要としているイタリアとスペインが、あるいはどちらか一方の国への資金供給が途絶えれば、欧州の政治家たちが考えたがらない破滅のシナリオということになり、世界経済に深刻な混乱を引き起こすこととなる。

   さて、若者の失業だが、注目すべきは、この表のタイトル「No Career Opportunities」である。
   問題の核心は、キャリアと言う言葉で、
   WSJは、「若い時に長期失業を経験すれば、生涯的に悪影響を受ける可能性があると専門家は指摘しており、若年層の失業は大きな問題である。 経済協力開発機構(OECD)は昨年発行した報告の中で、「若年期における長期的な失業は、将来の賃金や雇用可能性に悪影響を与えるだけでなく、しばしば生涯癒えることない心の傷になる」と懸念を表明した。」と記している。
   日本の若者の就職難やフリーター現象について、フレッシュマンに働き活躍する場を与えられず路頭に迷わせることが、将来の宝であるべき最も重要な人的資源のスポイルと浪費の極致であり、日本の将来にとって如何に重大な損失かと言うことを何度も論じて来たが、成長の止まった先進諸国の成熟経済の悲劇と言うだけでは済まされない問題である。

   何故、雇用が促進されないのか。
   政府は支出を増やして雇用創出を促進させ、高失業率の抑制に努める筈だが、支出を削減し、財政赤字目標を達成するよう金融市場から圧力を受けている現在の環境においては、このような政策は政府の選択肢にはない。
   また、高給と税金の影響で正規雇用のコストが上昇しているとか、景気に不透明感が漂うなか、解雇に費用がかかり法的な規制が厳しいために、企業が新規雇用を控えるケースも多いとか、賃金が中央政府によって設定されているため、企業は生産性や現地の生活費水準に基づいて賃金を調整することができないとか、また失業保険など社会福祉制度が整っていることが働くことへの意欲をそいでいるなどと言った指摘がなされている。
   各国政府は教育や雇用助成を増やすよう試みているのだが、ギリシャの場合、雇用助成金プログラムで雇用された者のうち、同プログラムの終了後も雇用されているは3分の1に過ぎないという。
   その上に、熾烈なグローバリゼーションの拡大で、快進撃する新興国との競争で、価格競争力だけに限っても要素価格平準化定理の前には、太刀打ちするすべもなく、それに、デジタルICT革命によって雇用なき生産性の向上でどんどんマンパワーが削減されて行くのだから、たとえ政府が、いくら経済成長エンジンのアクセルを踏んでも焼け石に水。

   鉄は熱い内に打てと言う。
   我々が若かった頃と比べて、今日では、時代の潮流が、10倍も20倍も早くなっており、若者たちに、寸暇を惜しんで、挑戦と応戦の試練に直面させ未来を切り開くチャンスを与えない限り、劫火のように逆巻くグローバル競争にキャッチアップ出来る筈がない。
   日本では、内定率と言った無味乾燥な数字だけが独り歩きして、フレッシュマンたちから、働く意欲を摘み取って、活躍する機会さえも与えずにスポイルすることが、如何に重大な罪であるかと言う認識が非常に希薄である。
   日本人全体がこのことを肝に銘じて一刻も早く歯止めをかけない限り、益々、日本沈没への奈落の底の一里塚に近づくことになる。
   国家債務問題も最悪だが、人財としての若者の浪費も最悪かもしれないのに、日本人は、天が落ちてこないと太平天国を決め込んでいる。幸せな国である。
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