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素晴らしい「ラ・トラヴィアータ ― 椿姫 」のオペラであった。
これまでに、オペラハウスで、何回、このオペラを観たか、その度ごとに、ヴェルディ節に酔って感激し続けてきたが、今回は本当にすごい。
NYTが、MET史における新時代、ヤニック・ネゼ=セガンの時代の幕開けと報じたこの「椿姫」は、2018年秋に音楽監督に就任した若き43歳のヤニック・ネゼ=セガンの満を持しての公演で、
ヴィオレッタのディアナ・ダムラウ、アルフレードのファン・ディエゴ・フローレス、ジェルモンのクイン・ケルシーの超弩級の歌唱に加えて、特に興味深かったのは、トニー賞受賞 気鋭の演出家 マイケル・メイヤーの演出であった。
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このメイヤーの演出については、HPに、詳細なインタビュー記事が掲載されていて、非常に面白い。
まず、前作の「椿姫」のプロダクションが、モダンで少しディコンストラクトされたものであったので、今回はヴェルディ作曲当時の現代であった19世紀パリに舞台を設定したクラシックでシックな舞台であり、それも、全編、その同じ舞台を僅かなバックや家具等の移動と照明の変化で通し、
また、ヴィオレッタが、生まれてから、高級娼婦として生き、死ぬまで全てベッドが人生の真ん中にあったと考えて、、舞台の中央に常にベッドを置いて、舞台からベッドを片付けずに押し通した。
舞台の正面中央にベッド、左手にピアノ、右手に事務机と椅子、その左右前方に小さなテーブル、
家具等はこれだけだが、ピアノが、第2幕のカード台に早変わりするなど、うまく使われている。
もう一つ興味深いのは、正面に白い椿をイメージした薄い幕越しに光が当たると、第3幕のシーンが現れて、前奏曲が始まる劇的な幕開けである。
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また、今回の《椿姫》は、ロマンティックで、よりビジュアルで豊かなものにしたいと思って、その美は、自然から得られるのではと考えて、ヴィオレッタのアルフレードとの愛を辿ると、4つの章になり、プロローグは冬で、その間が春、夏、秋になると、人生のフラッシュバックを、四季を通じて辿ることにしたと言う。
先のヴィリー・デッカーの超モダンな椿姫の舞台では、ネトレプコやヨンチェーヴァが素晴らしいヴィオレッタ(WOWOWで録画したMETライブビューイングで観た)を歌い、ダムラウも演じたようだが、ダムラウは、当時を模したクラシックで超豪華なゼフィレッリ演出の「椿姫」のテレサ・ストラータスの舞台を観て感激してオペラの道に入ったといっており、当然、このクラシックなメイヤーの舞台の方が理想だと語っていた。
このゼフィレッリの「椿姫」は、ストラータスのヴィオレッタにドミンゴのアルフレートで映画になっており、随分昔に、パリの映画劇場で観たのを覚えている。
メイヤーは、METでの前作「リゴレット」では、16世紀のイタリアのマントヴァから1960年代のラスべガスに舞台設定を移して、多くの支持者を掴み、そして同じくらい多くの敵を作り出したと言うから面白い。
さて、主題の椿だが、安達瞳子さんは、著書「椿しらべ」の中で、
小説「椿姫」のヒロイン・マルグリットは、椿以外は身に着けない女性として描かれている。その椿の品種は、フランス人は今アルバ・フィレと呼んでいるが、つまりは、乙女椿系の花。シャネルがしばしばデザインのモチーフにしている千重咲き、花弁が幾重にも重なってあの花の中心の花蕊がほとんど見えない花形なのである。と書いている。
バラのようになっていて、一寸、典型的な乙女椿とは雰囲気が違ってはいるが、冒頭の舞台のような椿で、ヴィオレッタが第1幕でアルフレートに渡す白い一輪の椿もこれで、第3幕の終幕でも、舞台左手の小さなテーブルの宝石箱の上に置かれて、ひっそりと存在感を見せていた。
夫々の歌手については、NYTなどの劇評を抜粋すると、
ヴィオレッタのディアナ・ダムラウは、
究極の”歌う女優”であるダムラウは、この役で本領を発揮した。 シェイクスピア俳優クラスの演技力であり、METでは1970年代のジョン・ヴィッカーズとレナータ・スコットの全盛期以来、ほとんど見られなかったくらいの名演である。ダムラウの演じたヴィオレッタは別格で、歌唱は声量豊かで包み込むようでありながら、細部まで研ぎ澄まされていた。
最初の印象は、メリル・ストリープに似た非常に魅力的な雰囲気の歌手で、特に、その素晴らしい演技力にびっくりしたのだが、後で、オペラ界のメリル・ストリープと称されているようで、美貌と演技力はトップ映画俳優並みと言うことであるから、なるほどと思った。
昔、ロイヤルオペラで、演目は忘れたのだが、ロシアの偉大なメゾソプラノ・エレーナ・ヴァシリーエヴナ・オブラスツォワの歌唱に圧倒されたのだが、如何せん、大根役者、
今では、才色兼備のオペラ歌手が多くなってきていて、舞台が楽しみなってきている。
アルフレードのファン・ディエゴ・フローレスは、
テノールのフアン・ディエゴ・フローレスは今回役デビューとなったアルフレードを演じ、前回METに登場して以来の、彼の魅力である精緻なレガートを巧みに操り、柔らかい声質の歌唱で四季を表わすそれぞれの幕をゴージャスに歌い上げ、観客を魅了した。テノールのスター歌手フアン・ディエゴ・フローレスはとても芸術性の高い歌唱を見せつけた。
このフローレスは、凄いハイCを披露しながらも、ベルカント風に美しい歌唱で魅了した。
ジェルモンのクイン・ケルシーは、
クイン・ケルシーが、久し振りに登場したヴェルディ歌いのスター・バリトンであることは間違いない。
先の「アイーダ」で、父親王を感動的に演じていた記憶が、まだ、新しい。
ヤニック・ネゼ=セガンは、詰らないことで解雇された偉大な指揮者ジェイムズ・レバインの後を継いだMETの新音楽監督であるから、期待が大きく、観客の拍手が、最も大きかった。
2年間メンバーチケットを持って通い続けていたフィラデルフィア管弦楽団の音楽監督をも兼務して居ると言うので、親しみも感じている。
今回の映画で、練習風景の中で、ダムラウに指示を与えながら、第1幕のアリア「ああ、そは彼の人か」に演技をつけ、初めての本当の愛に目覚めたLa traviata(ラ・トラヴィアータ:道を踏み外した女)の心のときめきを教えていた。
相性が良くて、ダムラウが、「弟のよう」と言っていたのが面白かった。
今回の舞台で、異彩を放っていたのは、ダイナミックで素晴らしいバレエの舞台。
プリマを踊っていたアフリカ系女性ダンサーの凄さに感動した。
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(追記)写真は、すべて、HPから借用。
これまでに、オペラハウスで、何回、このオペラを観たか、その度ごとに、ヴェルディ節に酔って感激し続けてきたが、今回は本当にすごい。
NYTが、MET史における新時代、ヤニック・ネゼ=セガンの時代の幕開けと報じたこの「椿姫」は、2018年秋に音楽監督に就任した若き43歳のヤニック・ネゼ=セガンの満を持しての公演で、
ヴィオレッタのディアナ・ダムラウ、アルフレードのファン・ディエゴ・フローレス、ジェルモンのクイン・ケルシーの超弩級の歌唱に加えて、特に興味深かったのは、トニー賞受賞 気鋭の演出家 マイケル・メイヤーの演出であった。
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このメイヤーの演出については、HPに、詳細なインタビュー記事が掲載されていて、非常に面白い。
まず、前作の「椿姫」のプロダクションが、モダンで少しディコンストラクトされたものであったので、今回はヴェルディ作曲当時の現代であった19世紀パリに舞台を設定したクラシックでシックな舞台であり、それも、全編、その同じ舞台を僅かなバックや家具等の移動と照明の変化で通し、
また、ヴィオレッタが、生まれてから、高級娼婦として生き、死ぬまで全てベッドが人生の真ん中にあったと考えて、、舞台の中央に常にベッドを置いて、舞台からベッドを片付けずに押し通した。
舞台の正面中央にベッド、左手にピアノ、右手に事務机と椅子、その左右前方に小さなテーブル、
家具等はこれだけだが、ピアノが、第2幕のカード台に早変わりするなど、うまく使われている。
もう一つ興味深いのは、正面に白い椿をイメージした薄い幕越しに光が当たると、第3幕のシーンが現れて、前奏曲が始まる劇的な幕開けである。
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また、今回の《椿姫》は、ロマンティックで、よりビジュアルで豊かなものにしたいと思って、その美は、自然から得られるのではと考えて、ヴィオレッタのアルフレードとの愛を辿ると、4つの章になり、プロローグは冬で、その間が春、夏、秋になると、人生のフラッシュバックを、四季を通じて辿ることにしたと言う。
先のヴィリー・デッカーの超モダンな椿姫の舞台では、ネトレプコやヨンチェーヴァが素晴らしいヴィオレッタ(WOWOWで録画したMETライブビューイングで観た)を歌い、ダムラウも演じたようだが、ダムラウは、当時を模したクラシックで超豪華なゼフィレッリ演出の「椿姫」のテレサ・ストラータスの舞台を観て感激してオペラの道に入ったといっており、当然、このクラシックなメイヤーの舞台の方が理想だと語っていた。
このゼフィレッリの「椿姫」は、ストラータスのヴィオレッタにドミンゴのアルフレートで映画になっており、随分昔に、パリの映画劇場で観たのを覚えている。
メイヤーは、METでの前作「リゴレット」では、16世紀のイタリアのマントヴァから1960年代のラスべガスに舞台設定を移して、多くの支持者を掴み、そして同じくらい多くの敵を作り出したと言うから面白い。
さて、主題の椿だが、安達瞳子さんは、著書「椿しらべ」の中で、
小説「椿姫」のヒロイン・マルグリットは、椿以外は身に着けない女性として描かれている。その椿の品種は、フランス人は今アルバ・フィレと呼んでいるが、つまりは、乙女椿系の花。シャネルがしばしばデザインのモチーフにしている千重咲き、花弁が幾重にも重なってあの花の中心の花蕊がほとんど見えない花形なのである。と書いている。
バラのようになっていて、一寸、典型的な乙女椿とは雰囲気が違ってはいるが、冒頭の舞台のような椿で、ヴィオレッタが第1幕でアルフレートに渡す白い一輪の椿もこれで、第3幕の終幕でも、舞台左手の小さなテーブルの宝石箱の上に置かれて、ひっそりと存在感を見せていた。
夫々の歌手については、NYTなどの劇評を抜粋すると、
ヴィオレッタのディアナ・ダムラウは、
究極の”歌う女優”であるダムラウは、この役で本領を発揮した。 シェイクスピア俳優クラスの演技力であり、METでは1970年代のジョン・ヴィッカーズとレナータ・スコットの全盛期以来、ほとんど見られなかったくらいの名演である。ダムラウの演じたヴィオレッタは別格で、歌唱は声量豊かで包み込むようでありながら、細部まで研ぎ澄まされていた。
最初の印象は、メリル・ストリープに似た非常に魅力的な雰囲気の歌手で、特に、その素晴らしい演技力にびっくりしたのだが、後で、オペラ界のメリル・ストリープと称されているようで、美貌と演技力はトップ映画俳優並みと言うことであるから、なるほどと思った。
昔、ロイヤルオペラで、演目は忘れたのだが、ロシアの偉大なメゾソプラノ・エレーナ・ヴァシリーエヴナ・オブラスツォワの歌唱に圧倒されたのだが、如何せん、大根役者、
今では、才色兼備のオペラ歌手が多くなってきていて、舞台が楽しみなってきている。
アルフレードのファン・ディエゴ・フローレスは、
テノールのフアン・ディエゴ・フローレスは今回役デビューとなったアルフレードを演じ、前回METに登場して以来の、彼の魅力である精緻なレガートを巧みに操り、柔らかい声質の歌唱で四季を表わすそれぞれの幕をゴージャスに歌い上げ、観客を魅了した。テノールのスター歌手フアン・ディエゴ・フローレスはとても芸術性の高い歌唱を見せつけた。
このフローレスは、凄いハイCを披露しながらも、ベルカント風に美しい歌唱で魅了した。
ジェルモンのクイン・ケルシーは、
クイン・ケルシーが、久し振りに登場したヴェルディ歌いのスター・バリトンであることは間違いない。
先の「アイーダ」で、父親王を感動的に演じていた記憶が、まだ、新しい。
ヤニック・ネゼ=セガンは、詰らないことで解雇された偉大な指揮者ジェイムズ・レバインの後を継いだMETの新音楽監督であるから、期待が大きく、観客の拍手が、最も大きかった。
2年間メンバーチケットを持って通い続けていたフィラデルフィア管弦楽団の音楽監督をも兼務して居ると言うので、親しみも感じている。
今回の映画で、練習風景の中で、ダムラウに指示を与えながら、第1幕のアリア「ああ、そは彼の人か」に演技をつけ、初めての本当の愛に目覚めたLa traviata(ラ・トラヴィアータ:道を踏み外した女)の心のときめきを教えていた。
相性が良くて、ダムラウが、「弟のよう」と言っていたのが面白かった。
今回の舞台で、異彩を放っていたのは、ダイナミックで素晴らしいバレエの舞台。
プリマを踊っていたアフリカ系女性ダンサーの凄さに感動した。
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(追記)写真は、すべて、HPから借用。