日経ビジネスで、大西 孝弘 ロンドン支局長の”エマニュエル・トッド氏「日本はウクライナ戦争から抜け出せ」”を読んだ。
トッド氏本人も一般的な考えではないことを認めており、一見意表を突くようなウクライナ戦争論なのだが、ある意味では正鵠を得ていると思える節もあり、感想を述べてみたい。
論考を纏めると、
ロシアのウクライナ侵攻によって、「第3次世界大戦が始まった」。まず精神的な意味でも、軍事的な対立でも誰にとっても完全勝利はないと理解すべきで、終らせるためには、敵国が怪物であるというような表象をやめて、精神的、道徳的、また倫理的な努力をして交渉しなければならない。
また、ロシアがこの戦争で苦戦しているため、一度獲得した領土から二度と出ていかないだろう。交渉の場ではロシアが出ていかない代償として何を出せるかが焦点になり、例えば残ったウクライナの領土の独立性を認める必要がある。ウクライナの主権を認め、キーウはウクライナの独立した首都であり、ロシアとは関係がないことを認めるべきであろう。しかし同時に西洋人とウクライナ人は、今の黒海沿岸地域やウクライナ東部地域の一部がロシアの領土であることを認める必要がある。交渉が成立するかどうかは分からないが、ウクライナでは中級階層の人口が国外に流出を続けており、ウクライナは国家であることは間違いないが、健全な国家ではない。
ロシア問題というのは存在しない。侵攻前のロシア社会は安定を見いだしていた。領土は人口に対して大き過ぎ、その中で北大西洋条約機構(NATO)の拡大に脅威を感じており、これを阻止するべく予防のための戦争に乗り出したという意味では、ロシアの指導者層は合理的な態度を見せていた。
真の問題、世界の不安定性はロシアではなく米国に起因している。米国は世界的な軍事大国で、中東などで戦争や紛争をする、それを維持し続けている存在である。ウクライナ軍も再組織化した。そしておそらく同じようなことをアジアでも引き起こそうとすると考えられ、台湾に対してウクライナのように振る舞うべきだと言い始めている。米国は不平等が進み、(人口の一部では)死亡率も高まっているような、健全ではない国家になってしまっている。ウクライナ戦争が終わっても米国が、欧州や日本、韓国をコントロールし続けている限り、世界は安定化には向かわないであろう。
米国の政治は今、欧州大陸を壊そうとしている。フランスの人々がこれからどんどん貧しくなってしまうのも米国の行動に起因しており、そういう意味で非常に怒りを感じていて、これは歴史家としてではなくフランス人としての個人的な発言である。
ウクライナ戦争の打開策としては、フランスやドイツが「戦争から抜ける」ことである。米国のイラクへの侵攻のときに、ドイツとフランスは侵攻に反対して、ドイツが決めフランスが付いていく流れであったが、ドイツの首相が特に大きな政策を打ち出す必要もなく、ただ単に、「もうやめよう」とさえ言えば、米国中心のこの戦争のメカニズムが崩壊し、感情に突き動かされている欧州諸国もドイツに付いていくであろうから、ドイツは気がつくだけで良い。
この戦争の真に悲劇的な側面というのは、それが不条理なもの、非常にばかげたものだという点で、この戦争は簡単に避けることができた。ロシアはウクライナのNATO加盟を許容できないと言い続けてきた。そしてドンバス地方の自立やロシア語話者の権利などを要求していた。ウクライナ人たちがそれを認めていればこのような戦争は起きなかったはずである。
この戦争の理由は非常に不条理だが、同時にいったん始まると抜け出すのが非常に難しい。ウクライナも米国政府もニヒリストになっていて、ポーランドも、バルト3国や英国もおそらくそうなっているからである。始まった理由が非常に不合理であり、悪夢という状態なので、誰かが目を覚まさなければいけない。
ロシアの人口を見れば欧州を攻撃しようなど、そんな計画をロシアが描いていたはずがない。これだけのウクライナ人が亡くなる必要はなかったのであり、そして欧州全体がロシアへの経済制裁のせいで貧困化していくというような事態は避けられるはずであった。
侵攻してはいけない、軍事介入してはいけないという原則は非常に不条理な話で、西洋でもそれは守られてこなかったのが現実である。西洋では米国が他国への侵攻を続けてきた。だから今、起きていることに関していえば、ロシアは米国の生徒だというふうにすら言える。これまで米国が行ってきたことに習い、ロシアが侵攻したという流れがある。
戦争を忌み嫌っているのだが、言いたいのは、西洋の陣営の中でも特に米国は、ロシアに対し、原則を破っているなんて言う権利はないだろうということである。
日本については、安全面での唯一の解決策があるとすれば、核兵器の所有である。
日本の問題は非常に簡潔に言えば中国である。中国では人口減少が始まっているので、そのため日本に対しても、中国の脅威度は大きく下がる。そして、日本の問題は例えば中国にある日本企業の工場をいかに維持していくかというような観点になっていくであろう。
米国との同盟関係は理解できるし、ロシアとの良い関係性も長期的に重要であり、これはウクライナ戦争を経た今も有効な話である。地理的にロシアも中国も日本も同じ場所に今後も存在し続けるからである。
しかし、このウクライナ戦争は、日本の問題ではないことを認めるべきである。なぜ日本がウクライナにここまで関心を抱くのか。フランスやドイツ、スウェーデン、フィンランド、欧州諸国が関わっているのは当然だが、ウクライナから非常に離れた日本が、なぜウクライナのせいで世界大戦に巻き込まれなければならないのか、
日本への助言は、「抜け出せ」ということである。ウクライナの危機は欧州全体を巻き込んでいるのが現状だが、ウクライナ戦争は日本の問題ではない。ウクライナがあたかもブラックホールのようになっているが、日本はNATO加盟国ですらなく、日本が取るべき立場は、中立国という立場である。
ポーランドやリトアニア、ベラルーシ、ウクライナなどこの辺りの地域は、世界大戦中に最もひどい出来事が起きた地域で、Bloodlands(流血地帯)と米国人が呼んだ場所であり、ソ連軍とドイツ軍が衝突したり、ユダヤ人たちが多く虐殺されたりしたのもこの地域であった。
この地域は18世紀からそうであり、この地域圏はとてもリスクが高く、非常に危ないことが多く起きる地域なので、日本はここに入り込んできてはいけない。なぜ、日本が血なまぐさいこのような地域に関わらないといけないのか、ぜひここからは遠のいてほしいと思う。
まず、キッシンジャーのダヴォス発言と同様に、ロシアに、ウクライナ侵攻以前に併合してたクリミア共和国と、ウクライナ東部で親ロシア派勢力が支配する「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」を、ロシア領として承認しろという論点だが、国際法上も国連憲章に照らしても、認められない暴挙である。
独善的な軍事的な侵攻によって、他国の領土を併合するようなことが認められるならば、國際秩序は崩壊してしまう。
アメリカが、イラク侵入などで勝手なことをして他国に軍事介入をし続けてきたので、ロシアは、国防のために、止むに止まれずウクライナに侵攻した。ウクライナが、NATO加盟を諦め、ドンバス地方の自立やロシア語話者の権利などのロシアの要求を認めておれば、戦争にならなかったという。のだが、暴言だと思う。
ドイツの首相が、「もう止めよう」という意味はどう言うことか。米国が絡むので不明だが、EUが、ロシアとの停戦交渉など戦争終結について十分に合意を得られずに、ウクライナに加担するのを止めて、ウクライナ戦争から完全に手を引くのなら、アフガニスタンのように悲惨な状態になる。
世界に、好き勝手に軍事介入して国際秩序を破壊している元凶はアメリカであるから、ロシアはこれに倣っただけだと言うのは、前に紹介したスティグリッツ教授の見解と同じで、自由主義、民主主義の擁護者代表のような顔をして国際秩序を破壊しているのはアメリカであり、アメリカが一番悪いと言う。
この論理は、イラクのみならず、ヴェトナムからアフガニスタン、シリア、アフリカ諸国など、世界各地で、アメリカの価値観の押しつけが、国際紛争を引き起こしたり複雑化させるなど内乱やテロリズムの種を蒔いていると言えようか。
冷戦終結直後のように、アメリカなり西欧の民主主義的な価値観が、支配的であった時期には問題なかったのだが、中国など国家資本主義的な専制国家体制の台頭が顕著となり、主義思想や国家体制が多様化してくるにつれて、新旧の体制の対立が激化して、今日の国家対立を引き起こして、ウクライナ戦争が勃発した。
日本が、ウクライナ戦争から身を引けという提言は、至極尤もだと思う。立ち位置が難しいが、日米安保第一、民主主義擁護と言う原則論重視でバイデンに引っ張られるのではなく、日本にとっての長期的なビジョンの確立が涵養であろう。
日本にとって、問題は中国だと言うこと、そして、アメリカとロシアとの関係を有効に活用して、キッシンジャーも言っていたが、核保有によって、極東の有事に備えよというトッドの提言は、賛成ではないが、現実論ではあろう。
専制国家の核保有国に囲まれ、丸裸状態でありながら、自衛権の行使がどうだと言った全く初歩的な小田原評定にうつつを抜かしている太平天国の日本、
常任理事国の軍事大国が、公然と独立国家を蹂躙するというあり得ないようなことが起こっている世界に鑑み、
我が日本も、風雲急を告げる現下、国を如何に守るべきか、真面に考えるべき時である。
トッド氏本人も一般的な考えではないことを認めており、一見意表を突くようなウクライナ戦争論なのだが、ある意味では正鵠を得ていると思える節もあり、感想を述べてみたい。
論考を纏めると、
ロシアのウクライナ侵攻によって、「第3次世界大戦が始まった」。まず精神的な意味でも、軍事的な対立でも誰にとっても完全勝利はないと理解すべきで、終らせるためには、敵国が怪物であるというような表象をやめて、精神的、道徳的、また倫理的な努力をして交渉しなければならない。
また、ロシアがこの戦争で苦戦しているため、一度獲得した領土から二度と出ていかないだろう。交渉の場ではロシアが出ていかない代償として何を出せるかが焦点になり、例えば残ったウクライナの領土の独立性を認める必要がある。ウクライナの主権を認め、キーウはウクライナの独立した首都であり、ロシアとは関係がないことを認めるべきであろう。しかし同時に西洋人とウクライナ人は、今の黒海沿岸地域やウクライナ東部地域の一部がロシアの領土であることを認める必要がある。交渉が成立するかどうかは分からないが、ウクライナでは中級階層の人口が国外に流出を続けており、ウクライナは国家であることは間違いないが、健全な国家ではない。
ロシア問題というのは存在しない。侵攻前のロシア社会は安定を見いだしていた。領土は人口に対して大き過ぎ、その中で北大西洋条約機構(NATO)の拡大に脅威を感じており、これを阻止するべく予防のための戦争に乗り出したという意味では、ロシアの指導者層は合理的な態度を見せていた。
真の問題、世界の不安定性はロシアではなく米国に起因している。米国は世界的な軍事大国で、中東などで戦争や紛争をする、それを維持し続けている存在である。ウクライナ軍も再組織化した。そしておそらく同じようなことをアジアでも引き起こそうとすると考えられ、台湾に対してウクライナのように振る舞うべきだと言い始めている。米国は不平等が進み、(人口の一部では)死亡率も高まっているような、健全ではない国家になってしまっている。ウクライナ戦争が終わっても米国が、欧州や日本、韓国をコントロールし続けている限り、世界は安定化には向かわないであろう。
米国の政治は今、欧州大陸を壊そうとしている。フランスの人々がこれからどんどん貧しくなってしまうのも米国の行動に起因しており、そういう意味で非常に怒りを感じていて、これは歴史家としてではなくフランス人としての個人的な発言である。
ウクライナ戦争の打開策としては、フランスやドイツが「戦争から抜ける」ことである。米国のイラクへの侵攻のときに、ドイツとフランスは侵攻に反対して、ドイツが決めフランスが付いていく流れであったが、ドイツの首相が特に大きな政策を打ち出す必要もなく、ただ単に、「もうやめよう」とさえ言えば、米国中心のこの戦争のメカニズムが崩壊し、感情に突き動かされている欧州諸国もドイツに付いていくであろうから、ドイツは気がつくだけで良い。
この戦争の真に悲劇的な側面というのは、それが不条理なもの、非常にばかげたものだという点で、この戦争は簡単に避けることができた。ロシアはウクライナのNATO加盟を許容できないと言い続けてきた。そしてドンバス地方の自立やロシア語話者の権利などを要求していた。ウクライナ人たちがそれを認めていればこのような戦争は起きなかったはずである。
この戦争の理由は非常に不条理だが、同時にいったん始まると抜け出すのが非常に難しい。ウクライナも米国政府もニヒリストになっていて、ポーランドも、バルト3国や英国もおそらくそうなっているからである。始まった理由が非常に不合理であり、悪夢という状態なので、誰かが目を覚まさなければいけない。
ロシアの人口を見れば欧州を攻撃しようなど、そんな計画をロシアが描いていたはずがない。これだけのウクライナ人が亡くなる必要はなかったのであり、そして欧州全体がロシアへの経済制裁のせいで貧困化していくというような事態は避けられるはずであった。
侵攻してはいけない、軍事介入してはいけないという原則は非常に不条理な話で、西洋でもそれは守られてこなかったのが現実である。西洋では米国が他国への侵攻を続けてきた。だから今、起きていることに関していえば、ロシアは米国の生徒だというふうにすら言える。これまで米国が行ってきたことに習い、ロシアが侵攻したという流れがある。
戦争を忌み嫌っているのだが、言いたいのは、西洋の陣営の中でも特に米国は、ロシアに対し、原則を破っているなんて言う権利はないだろうということである。
日本については、安全面での唯一の解決策があるとすれば、核兵器の所有である。
日本の問題は非常に簡潔に言えば中国である。中国では人口減少が始まっているので、そのため日本に対しても、中国の脅威度は大きく下がる。そして、日本の問題は例えば中国にある日本企業の工場をいかに維持していくかというような観点になっていくであろう。
米国との同盟関係は理解できるし、ロシアとの良い関係性も長期的に重要であり、これはウクライナ戦争を経た今も有効な話である。地理的にロシアも中国も日本も同じ場所に今後も存在し続けるからである。
しかし、このウクライナ戦争は、日本の問題ではないことを認めるべきである。なぜ日本がウクライナにここまで関心を抱くのか。フランスやドイツ、スウェーデン、フィンランド、欧州諸国が関わっているのは当然だが、ウクライナから非常に離れた日本が、なぜウクライナのせいで世界大戦に巻き込まれなければならないのか、
日本への助言は、「抜け出せ」ということである。ウクライナの危機は欧州全体を巻き込んでいるのが現状だが、ウクライナ戦争は日本の問題ではない。ウクライナがあたかもブラックホールのようになっているが、日本はNATO加盟国ですらなく、日本が取るべき立場は、中立国という立場である。
ポーランドやリトアニア、ベラルーシ、ウクライナなどこの辺りの地域は、世界大戦中に最もひどい出来事が起きた地域で、Bloodlands(流血地帯)と米国人が呼んだ場所であり、ソ連軍とドイツ軍が衝突したり、ユダヤ人たちが多く虐殺されたりしたのもこの地域であった。
この地域は18世紀からそうであり、この地域圏はとてもリスクが高く、非常に危ないことが多く起きる地域なので、日本はここに入り込んできてはいけない。なぜ、日本が血なまぐさいこのような地域に関わらないといけないのか、ぜひここからは遠のいてほしいと思う。
まず、キッシンジャーのダヴォス発言と同様に、ロシアに、ウクライナ侵攻以前に併合してたクリミア共和国と、ウクライナ東部で親ロシア派勢力が支配する「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」を、ロシア領として承認しろという論点だが、国際法上も国連憲章に照らしても、認められない暴挙である。
独善的な軍事的な侵攻によって、他国の領土を併合するようなことが認められるならば、國際秩序は崩壊してしまう。
アメリカが、イラク侵入などで勝手なことをして他国に軍事介入をし続けてきたので、ロシアは、国防のために、止むに止まれずウクライナに侵攻した。ウクライナが、NATO加盟を諦め、ドンバス地方の自立やロシア語話者の権利などのロシアの要求を認めておれば、戦争にならなかったという。のだが、暴言だと思う。
ドイツの首相が、「もう止めよう」という意味はどう言うことか。米国が絡むので不明だが、EUが、ロシアとの停戦交渉など戦争終結について十分に合意を得られずに、ウクライナに加担するのを止めて、ウクライナ戦争から完全に手を引くのなら、アフガニスタンのように悲惨な状態になる。
世界に、好き勝手に軍事介入して国際秩序を破壊している元凶はアメリカであるから、ロシアはこれに倣っただけだと言うのは、前に紹介したスティグリッツ教授の見解と同じで、自由主義、民主主義の擁護者代表のような顔をして国際秩序を破壊しているのはアメリカであり、アメリカが一番悪いと言う。
この論理は、イラクのみならず、ヴェトナムからアフガニスタン、シリア、アフリカ諸国など、世界各地で、アメリカの価値観の押しつけが、国際紛争を引き起こしたり複雑化させるなど内乱やテロリズムの種を蒔いていると言えようか。
冷戦終結直後のように、アメリカなり西欧の民主主義的な価値観が、支配的であった時期には問題なかったのだが、中国など国家資本主義的な専制国家体制の台頭が顕著となり、主義思想や国家体制が多様化してくるにつれて、新旧の体制の対立が激化して、今日の国家対立を引き起こして、ウクライナ戦争が勃発した。
日本が、ウクライナ戦争から身を引けという提言は、至極尤もだと思う。立ち位置が難しいが、日米安保第一、民主主義擁護と言う原則論重視でバイデンに引っ張られるのではなく、日本にとっての長期的なビジョンの確立が涵養であろう。
日本にとって、問題は中国だと言うこと、そして、アメリカとロシアとの関係を有効に活用して、キッシンジャーも言っていたが、核保有によって、極東の有事に備えよというトッドの提言は、賛成ではないが、現実論ではあろう。
専制国家の核保有国に囲まれ、丸裸状態でありながら、自衛権の行使がどうだと言った全く初歩的な小田原評定にうつつを抜かしている太平天国の日本、
常任理事国の軍事大国が、公然と独立国家を蹂躙するというあり得ないようなことが起こっている世界に鑑み、
我が日本も、風雲急を告げる現下、国を如何に守るべきか、真面に考えるべき時である。