卒業した君たちへ その4 「校長先生の式辞」

今回の卒業式で、私の心に最も沁み入ったのが、じつは校長先生のお話した「式辞」でした。校長先生は定年を迎えられ、この卒業式で教師生活から卒業されたのです。おそらくその胸中には、長い教師生活の楽しかった思い出や苦しかった思い出も含めて、たくさんのことがよぎられたのではないかと思います。

校長としてというよりも、一教師として「最後の卒業生」となるこの子どもたちに、どんな言葉を残してあげたら良いのか。何日も時間をかけて構想し、何度も練り直し、卒業式でお話をされたに違いありません。

卒業式が終わった後の、教職員の昼食会のおりに、校長先生に尋ねてみました。

「先生、今日のお話は素晴らしかったです。相当考えられて原稿を書いたのではありませんか? 子どもたちはみんな自分の抱負を力強く発表した証書授与の後で、それにピッタリ合った内容のお話だったので、私はすごいなと思いながら聞いていました。そして『この話は教師生活最後の、いわば“遺言”とも言えるような思いがこもっていると感じました。」

「実はその通りです。子どもたちがしっかりした夢を語るのが分かっていましたから、それに合うようなお祝いの言葉を残してあげたかったんですよ。」

「校長先生、ぜひ式辞の原稿をコピーさせていただけませんか。文字に直して、子どもたちの卒業アルバムにはさんで、残しておくようにしたいのです。」

「区議の方からもコピーさせてほしいと言われました。いいですよ。子どもたちのためになるならどうぞお使いください。」


というわけで、コピーをさせていただきました。

卒業生のみんな、保護者の皆さん、ぜひもう一度、目を通して下さいませ。


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 大きくふくらんだ桜のつぼみも、もう三分咲きになってきました。東側にある姫リンゴやアンズの花はもう満開になっています。すっかり春らしくなってきました。
本日、ここに、本校第八十八回の卒業生として、門出の喜びを迎える五十五名のみなさん、卒業おめでとうございます。

 本日は、皆さんの小学校卒業をお祝いするために、江東区当局、江東区議会、江東区教育委員会、前校長先生をはじめ、日頃より、本校をご支援下さる大勢の地域、中学や幼稚園、PTAの皆様方やご来賓の方々が、大変お忙しい中、ご来校いただき、この式にご臨席くださいました。また、在校生の代表の四年生、五年生、そして、お父さん、お母さんもご列席くださいました。みなさんと一緒に、心からお礼を申し上げたいと思います。

 本日は、誠にありがとうございます。厚くお礼申しあげます。

 皆さんは、先ほど、在校生代表の四年生、五年生の心をこめた演奏と、ご列席の皆さん方の会場いっぱいの祝福の拍手に迎えられて、堂々と入場し、そして、この壇上で五十五名ひとりひとりが卒業証書を受け取りました。担任の先生が、感慨を込めて呼ぶひとり一人の名前と、希望に満ちた決意に、参列の皆さんが耳を傾け、卒業証書を受け取る姿をじっと見つめて、「おめでとう」「よく頑張りました」「立派な中学生になってください」という眼差しで祝福と激励をしてくださいました。
 今、しっかりと握っている卒業証書には、皆さんの六年間の生活の歴史と、努力が満ち満ちています。また、ご両親や先生方の限りない愛情が込められています。その卒業証書は、香取小学校の卒業生であるという証明書ですから、一生大切にしてください。

 さて、卒業生のみなさん、いよいよ中学生になりますが、中学生から三十歳までは青年といっていいでしょう。青年には夢があります。理想に燃え、実力に富んでいます。みなさんも意気揚々と青年期を迎えることと思います。

 人間には、特に青年期には、四つのやらなければならないことがあります。

 一つは、自分自身に尽くすことです。先祖代々からもらった自分の能力を最大限に発揮し尽くすことです。エジソンのような天才でも、「天才は1%の才能と99%の努力である」と言われます。天才でさえそうです。努力してください。

 二つは、親、兄弟に尽くすことです。両親ほどみなさんのことを考えてくれる人は、他にはいません。甘えてもいいですから、心配させないようにしてください。

 三つは、社会に尽くすということです。地域の中のバレーボールやサッカーの練習を見れば、いかに地域の人がみなさんのためにやってくれているかがわかります。吹奏楽部の人が一生懸命に練習している姿を見て、地域の人からみかんを一つずついただいたことがありますね。こういうことを「無償の行為」といいます。みなさんは、どうすればよいか。「ありがとう」と言えばいいのです。自分も大人になればこうしようと思うことです。

 四つめ、最後は日本の国のことを思うことです。毎週全校朝会で必ず季節の変化のことを言いましたが、それは、美しい日本の自然を感じ取ってもらいたかったからです。平和で美しいこの国を大切にしてほしいと思います。

 むかし、江戸時代に外国から使いが来て、二つの国がつきあうのに、その国の方が先生にあたる国だから、その礼をもってつきあうようにと言ったそうですが、新井白石という学者が応対して、「外交というものは、本来、対等のものでなくてはならないものです。」と説いて、ついに対等な条件にしたという歴史があるそうです。そして相手の使いは、白石の学力と人物にうたれ、国王の土産に白石の作った詩をもって帰ったと言われています。

 これはほんの一例ですが、日本の国の名誉を守るために、昔から大勢の人が努力してきたのです。

 日本の国の発展を考え、世界に飛躍する卒業生となってください。

 最後になりましたが、保護者の皆様、お子様のご卒業、おめでとうございます。皆様には何かにつけ、学校にご理解、ご協力いただき、ありがとうございました。どうぞこれからも、健康に気をつけ、明るい家庭を築かれ、お子様の成長を見守っていただきたいと思います。

 六年生の皆さんは、今日から中学校を目指して出発します。この晴れの姿を支えて下さった多くの人への感謝の気持ちを忘れないでください。今までたくさんの人が、皆さんを支えてくれました。これからも、多くの人と手を取り合って、自分の道を切り開いていくことを期待して、式辞といたします。
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