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ミステリ感想-『死神の精度』伊坂幸太郎

2015年07月05日 | ミステリ感想
~あらすじ~
死神の私が対象者に接触し、7日間の調査の末に「可」と報告すればその翌日に対象者は死ぬ。
人間に仕事上の付き合い以外で興味はないが、彼らの産み出したミュージックは素晴らしい。
ミュージックを堪能する傍ら、私は彼ら彼女らが死ぬべきか否か調査をする。

05年このミス12位、文春4位、日本推理作家協会賞・短編(表題作)、直木賞候補


~感想~
人間とはピントのずれた感性を持つ死神を視点人物に据えたおかげで、人によっては嫌悪すら覚える作者独特の会話や描写がぴたりと文体にはまり込んだ。人外と伊坂作品がここまで相性が良いとは。
後の大傑作「ゴールデンスランバー」のような伏線連鎖爆発とまでは行かないが、語り手を統一した連作短編集という形式を巧みに活かしており、各編に簡単に触れると表題作「死神の精度」は何がどう日本推理作家協会賞なのかは微塵も理解できない(ユニバーサルメルカトル図法よりはわかるが)ものの、展開・結末・タイトルが見事に絡み合い、本作の設定の説明回としても成立しているという秀作。
「死神と藤田」は言ってしまえばショートショート的な一発ネタながら逆説的なオチが面白い。
「吹雪に死神」は典型的な吹雪の山荘ミステリに「死神」という異分子を当てはめたパロディ風の一作で、本格ミステリにありがちな仕掛けと死神が思わぬ化学反応を見せ、表題作よりよほど日本推理作家協会賞している。
「恋愛で死神」と「旅路を死神」はミステリ的興味は薄いが単純に物語として秀逸で、「死神対老女」は掉尾を飾るにふさわしく、本作の素晴らしい締めくくりとなった。

アンチ伊坂幸太郎でも高確率で楽しめるだろう好短編集で、伊坂初心者はまず本作から入るのが良いのではなかろうか。


15.7.1
評価:★★★★ 8
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