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ミステリ感想-『牡牛の柔らかな肉』連城三紀彦

2015年09月16日 | ミステリ感想
~あらすじ~
かつて一人の男を死に追いやった後悔から出家し、小さな庵に住む美しき尼・香順。
やがて庵は全国からワケありの男たちが漂う駆け込み寺へとなる。
謎めいた色香を漂わせる香順は様々な策をめぐらせ、庵を発展させ、男たちを惑わせていく。


~感想~
前半は「エロい尼さんが周囲で起こる日常の謎を解く」というラノベにすれば天下獲れそうな内容で、名探偵ばりの洞察力と推理で、個性豊かなワケあり男たちの秘密を暴き、過剰なまでにどんでん返しを積み重ねていく様は実に小気味よい。
中盤からは「エロい尼さんの立身出世物語」になり、犯罪すれすれか明白に詐欺な策謀で周囲を操っていくコンゲーム的な内容で、あまりに尼さんの手の内で全てが転がされすぎるきらいはあるが、これもどんでん返しを効果的に使い、やはり面白い。
だが終盤の「エロい尼さんの過去を暴く」パートで急に観念的な話が増え、意外な過去こそ解かれるものの最終的には立身出世物語も、決意を秘めた男たちの動向も全てが置き去りなまま幕を閉じてしまい、実に物足りない。
連城以外では誰が書いても失敗するだろう「それは嘘」→「それは嘘だと言ったが本当」→「それは本当だと言ったが実は嘘(嘘とは言ってない)」といった具合に虚実が次々と入れ替わるやりすぎなくらいのどんでん返しの末に浮かび上がる、香順という謎の女の半生こそが物語の主眼であり、あくまで「半生」であるため結末が描かれないのは仕方ないことかもしれないが、尻切れとんぼに終わるのは不満しか残らなかった。
とはいえ中盤までは文句無しに面白く、コピペして保存したくなるような美文が所狭しとページを埋め尽くすので、結末に納得がいかずとも連城ファンなら楽しめることだろう。


15.9.5
評価:★★★ 6
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