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ミステリ感想-『その可能性はすでに考えた』井上真偽

2015年09月29日 | ミステリ感想
~あらすじ~
奇蹟を追い求める青髪の探偵・上苙丞。
彼のもとにもたらされた新たな依頼は「首無しの少年に命を助けられた」謎を解くこと。
奇蹟が存在することを証明するため、すべてのトリックが不成立であることを立証したと不敵に言い放つ探偵の前に、次から次へと現れ奇蹟を否定する刺客たち。
彼らの出すただ可能性があるというだけの牽強付会なトリックにすら探偵はこう返す「その可能性はすでに考えた」と。


~感想~
↓プロットにネタバレ注意↓
ツンデレ女マフィア、天才小学生探偵、次期法王と目される枢機卿、と中二病すぎる登場人物たちがひしめき、彼らが「ある程度つじつまが合っていればOK」という緩すぎる縛りから繰り出すバカトリックを「その可能性はすでに考えた」と青髪探偵が鎧袖一触で叩き潰すやりすぎな物語。

問題編はたった30数ページで終わり、西澤保彦「聯愁殺」のように後から続々と手掛かりが追加されることもなく、あくまでその短いテキストから得られる情報だけで無理くりひねり出したバカトリックがまず楽しい。
しかも探偵はそれを言われてから解くのではなく、タイトル通り対決の時点ですでに解決済のため、反証に掛かるのはせいぜい2~3ページで瞬殺してしまうのもお見事。
なんせ設定上、推理パートが無く解決編しか存在せず、そもそもあらゆる可能性を潰してある探偵が今さら相手の話を聞く必要もないのだが、中盤からはドラゴンボールの孫悟空のようにあの手この手で探偵の参戦を遅らせ、クリリンやピッコロ役に前座を務めさせ、絶望的な状況から探偵が復帰するや2~3ページで逆転させる手管が面白い。
そして終盤、こんな探偵どうやって倒すんだよとなぜだか敵目線になっていると、ラスボスはこれまでの流れを逆手に取った逆トリックとでも言うべき手段で探偵を追い詰め……とそれ以上は語るべきではない。
ただ個人的には、結末はもっと上を目指せただろうにと思えてならずやや残念ではあった。

ともあれキャラも設定もシリーズ化は容易だが、はたしてまだまだ他にやり口があるのかどうか。デビュー作の評判はアレだったものの、綺麗に手のひら返しされたこの第二作、今年の本ミスランキングのダークホースになることはもちろん、多重解決物に新たな地平を切り拓いた一冊として、長く話題になりそうである。


15.9.23
評価:★★★☆ 7
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