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ミステリ感想-『前夜祭』連城三紀彦

2015年09月19日 | ミステリ感想
~あらすじと感想~
恋愛小説かつ本格ミステリという驚くべき技巧を見せる作者が、浮気をテーマにミステリ味を濃い目に仕上げた短編集。
各編の質の高さや当たり外れの少なさはいつものことなので置いとくとして、特筆したいのは「それぞれの女が……」と「薄紅の色」の二編。
あまり詳しく書くと興を削ぐので出来ればこんな駄感想はこれ以上読まない方がいいが、念を押してからざっと紹介すると、「それぞれの女が……」は他作品でもたまに見られる「――」や「……」だけで場面転換する目まぐるしい展開から、不倫相手の急死を知らされた愛人と、夫の浮気に悩む妻、彼女らの話がとんでもない連関を見せる驚愕の仕掛けで、二度読み必至。

「薄紅の色」は上司の娘と結婚間近の男が、別の女に心惹かれてしまい、面目を潰された父親と衝突するも、その父親が急死した場面から話が始まり、予測不可能な結末までわずか23ページで一息に駆け抜けるという恐るべき一編。

その他にも「普通の女」は突然妻から離婚を切り出された男が、彼女の元カレの画家にわたりを付けるも、その背後からもはやホラーかファンタジーかというあまりに現実離れしたおぞましい真相が襲いかかり、表題作の「前夜祭」は他の短編と比べ淡々と話は進むものの、前触れもなく失踪した男について妻子や愛人、同僚や妻の浮気相手が振り返り、肝心の男は何一つ語らないものの彼の存在が確かに浮かび上がり深く印象に残る……と重ねて言うが捨てる所の全くない良作揃い。

殺人の一つも起こらず、ただ男女が恋し恋されるだけで謎と意外な真相が描かれてしまう、連城三紀彦にしか成し得ない驚異の作品世界である。


15.9.12
評価:★★★★ 8
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