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ミステリ感想-『アリス・ザ・ワンダーキラー』早坂吝

2016年09月28日 | ミステリ感想
~あらすじ~
父親のような名探偵になりたいと願い「不思議殺し(ワンダーキラー)」を名乗るアリス。
10歳の誕生日に父の友人だというウサギのような男にもらった装置で、不思議の国のアリスを題材とした仮想空間に飛び込み5つの謎に挑む。


~感想~
「不思議の国のアリス」や「鏡の国のアリス」を題材としたオーソドックスないわゆる異世界本格ミステリで、ファンタジーらしい脱出パズルに始まり誘拐、ダイイングメッセージ、遠隔殺人、密室殺人といずれもアリスの世界を上手く絡めつつ、豊富な伏線と論理性を備えた良質の短編揃い。最後にはそれらをまとめて引っくり返す大仕掛けにより物語が二転三転し、思いもよらぬ地点に着地する。

全体的なノリの軽さと、よくあることだが10歳児として描く意志の全く感じられないアリスの知識・言動その他の人物造型や、原作の知識が必要な伏線が一部にあることがやや難ながら、アリスシリーズについて通り一遍の知識しかない読者でも全く問題なく楽しめるだろう労作にして意欲作である。
また一ヶ所に、気づけば物語の結末が見抜けてしまいかねない大胆な綱渡りが仕掛けられており、読了後にはどうして注意して読まなかったのかと悔いが残ったことを付記しておく。


16.9.24
評価:★★★ 6
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