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ミステリ感想-『化身』愛川晶

2018年03月07日 | ミステリ感想
~あらすじ~
両親を亡くし一人暮らしを送る大学1年の人見操の家に、保育園とインドの絵画の写真が届く。
先輩の「シェフ」こと坂崎英雄の助けを借り調べると、保育園では19年前に未解決の幼児誘拐事件が発生していた。
亡き両親は誘拐犯なのか? 調査を進める操の前に次々と過酷な現実が現れる。

1994年鮎川哲也賞、文春8位


~感想~
落語から幻想、果ては女性名義でラノベミステリまで手掛けた才人のデビュー作。
いかにも狙って新人賞を獲りに行った熱意の籠もった力作で、両親を誘拐犯ではと疑う冒頭のつかみから、調査のたびに浮かび上がる事実と謎、堅牢な密室と急展開、そして絶望的な真実に、戸籍制度の盲点を突いたトリックの光る結末と、本格ミステリに必要なものが勢揃い。
多少の不自然さは無視した作中人物による解説付きのフェアプレイも加え、どこまでも周到な作品である。

一方で戸籍制度の盲点は、盲点過ぎて探偵の気付きと読者の気付きがリンクすることはまずありえず、ドカベンの「ルールブックの盲点の1点」みたいな解決であり、密室はダミーの真相も含めて低調で、事件の結末は込み入った内容を説明するためとはいえ味気ない供述調書の形式と、作風自体はいたって地味なのが玉に瑕。
とはいえ終盤の怒濤の展開と大団円は、我々が本格ミステリに期待するものが全て詰まっている、と言っても過言ではない素晴らしいもので、読後感は抜群。
鮎川賞のみならず文春8位を射止めたのも納得の良作には違いないだろう。


18.3.6
評価:★★★☆ 7
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