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ミステリ感想-『開化鐵道探偵』山本巧次

2018年03月24日 | ミステリ感想
~あらすじ~
明治12年。鉄道局長の井上勝は、初めて日本人の独力で工事に挑む逢坂山トンネルで相次ぐ、妨害工作とも取れる不審な事件に頭を悩ませ、元八丁堀同心の草壁賢吾に調査を依頼。
草壁は技手見習の小野寺乙松を助手に付けられ、現場に到着した早々に、工事関係者が電車から転落死したと聞かされる。

2017年このミス10位


~感想~
面白かったしすごく良くできているが、いかんせん地味。超地味。どのくらい地味かと言うと話の筋を明日には忘れそうなレベルで、正直これがこのミス10位にランクインしたのはものすごい奇蹟だと思う。
え。マジで10位なの? なんで? 2017年だよね? このミスにいったい何があったんだ……。

改めて言うが完成度は高い。八丁堀同心を主人公にした時代ミステリでデビューした著者が、現在も鉄道会社に勤務しているという経験を活かし、元同心を探偵役に日本の鉄道黎明期を描いたのだから、面白くなるに決まっているではないか。
が、地味なのだ。超地味なのだ。
探偵は典型的なもったいつけで、初めからわかっていた真相を最後の最後まで明かそうとしない。捜査の過程も地道に地味に描かれ、探偵が天啓を得るような目を見張る伏線も少ない。
犯人も地味。超地味。地味な犯人ランキングを作成したらベスト5に入ることは疑いなく、もし1年後に再読したらこいつが犯人だと指摘できる自信が全く無いレベル。
井上勝や藤田伝三郎といった実在の偉人を配し、史実を下敷きにしておきながら物語がかつてないほどに地味なのも珍しい。

再三言うが話自体はすごく良く出来ているのだ。明治期のトンネル工事の実態はだいぶ想像が入っているそうだが、時代背景や情勢も興味深い。
キャラも魅力的で、悪人サイドを除くとほぼ全員が水滸伝か何かに出てきそうな一癖ある好漢ぞろいで、もったいつけ探偵とぼんくら助手のコンビも悪くない。
これだけ物語を読ませる力があれば、ミステリ的に見どころのあるトリックやプロットさえ付いてくれば、いつかとんでもない傑作を書き上げる可能性は非常に高いと思う。

そうした期待値込みで10位に上げられたのかとも思うが、ここ4年のこのミス10位といえば「異次元の館の殺人」、「オルゴーリェンヌ」、「ジェリーフィッシュは凍らない」とインパクトのある作品が続いており、そこに本作が並ぶとなると、いくら「ルビンの壺が割れナントカ」がランクイン候補に挙げられたほど不作の年とはいえ、やはり首を傾げたくなるばかりである。我々は一つの奇蹟を目にしたのかも知れない。


18.3.23
評価:★★☆ 5
コメント (2)