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ミステリ感想-『死の相続』セオドア・ロスコー

2018年03月21日 | ミステリ感想
~あらすじ~
ハイチの農園主のアンクル・イーライは弁護士を通じ葬儀に従業員や姪を集めさせ、遺言を公開。
全員に相続順位を付け、屋敷の外に出た者(≒死亡した者)は相続権を失い、24時間後に生きていた中で最上位の者に遺産を与えると告げる。
まるで殺し合いを奨励するような内容に一同は面食らい、当然のように殺人劇の幕が開く。


~感想~
黄金の羊毛亭さんの「堕天使拷問刑」の感想で「(怒濤のクライマックスと崩壊は)比肩し得る」と書かれておりずっと気になっていたので、苦手な翻訳ミステリながら読んだ次第。

設定は抜群。登場人物もほぼ全員が一人や二人どころか十数人は殺している曲者揃いで、バタバタと人が死んでいくが、そのいずれもが密室か不可能状況に置かれる。
それだけでも面白いのに終盤には羊毛亭さんが仰る通りのとんでもない超展開を見せ、物語はあさっての方向にすっ飛んでいき、異形を交えて壮絶な大乱闘が繰り広げられる。
(余談だがそのさなかにある人が語り手を襲う理由がまるで理解できなかった。中盤から流し読みしたが何か読み飛ばしたのだろうか?)
そして理屈の通じない異形どもを理で収めるような意外な決着法で乱闘を終わらせると、密室や不可能状況の謎を明快かつ簡潔に紐解いていき、全てが論理的に語られるのには驚かされた。
ラストシーンも見事な伏線回収で決まり、内容自体には全く不満が無いどころか、飛鳥部勝則に擬せられる(※逆です)のも納得の佳作なのだが、問題は翻訳文の拙さ。

自分がもともと翻訳ミステリが大の苦手で、読み慣れていないこともあるにしろ、直訳しほとんどブラッシュアップしていないのではと疑うほどに日本語になっておらず、意味不明の比喩や、どこまでがジョークや皮肉でどこまでがまっとうな発言なのか理解に苦しみ続けた。
中盤からは細かく読むことを完全に放棄して話の筋だけ追いなんとか読了したが、自分にとってこの文章はかの「NO推理、NO探偵?」と全く同価値の代物であった。

だが羊毛亭さんはもちろんのこと他の読者の感想を見ても特に読みづらかったとも、際立って翻訳がまずかったとも書かれておらず、単純に自分と訳者の相性が悪かったか、翻訳ミステリそれ自体へのアレルギーが原因であろう。
繰り返すが内容自体は突飛な展開と論理的な本格ミステリを両立させた稀有の作品であり、翻訳ミステリを読み慣れた向きならば、自分の数十倍は楽しく読めることだろう。


18.3.19
評価:★★☆ 5
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