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ミステリ感想-『ベーシックインカム』井上真偽

2019年12月12日 | ミステリ感想
~収録作品とあらすじ~
日本語を学ぶため幼稚園に勤めるエレナは、乱暴な幼児の言葉からあることに気づく…言の葉の子ら
豪雪の中に取り残された一家。父だけが腕を失った奇妙な姿で死亡しており…存在しないゼロ
謎の失踪を遂げた妻。夫は彼女のはまっていたVR怪談の中に手がかりを求める…もう一度、君と
盲目の娘へ人工視覚の手術を受けさせようとする父。ところが不意に資金を失ってしまい、娘はある推理を立てる…目に見えない愛情
ベーシックインカムにより金目的の犯罪は消えると主張する教授。彼の金庫から通帳が盗まれ…ベーシックインカム

2017年日本推理作家協会賞(短編)候補(※言の葉の子ら)


~感想~
ある共通のテーマを用いた短編集。
「ある」とぼかしてみたものの表紙には堂々と「SFミステリ」と書かれている。ある一編のネタバレになっているのだがなあ…。

それはともかく、SFといっても近未来の誰しも聞いたことのある技術が用いられているだけで、敬遠する必要はない。
SF要素を加えることで、物語に捻りと斬新さを付与することに成功しており、一風変わった読書体験ができるだろう。
個人的な好みは、日本推理作家協会賞の候補にも挙がった「言の葉の子ら」と、全作品を強引に連作短編集として束ねてしまう表題作が良かった。
あと読んでいる最中になぜか何度も深水黎一郎の作品と勘違いした。いかにも深水が書きそうな話なんだよな。
「その可能性はすでに考えた」や「探偵が早すぎる」等のライトかつ本格ミステリな作風だけではない、作者の新境地が現れた、なかなかの好短編集である。


19.12.10
評価:★★★ 6
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