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ミステリ感想-『落下する緑』田中啓文

2021年05月20日 | ミステリ感想
~あらすじ~
若手サックス奏者の永見緋太郎は、天才肌だが音楽以外に興味がなく常識もない。
だがその飛躍的な発想はしばしば周囲で起こる事件の真相を言い当てる。

2016年このミス14位

~感想~
他ジャンルで活躍する作者がデビュー前に「本格推理」に投稿し、鮎川哲也に称賛された表題作を含む短編集。
作者唯一の(?)本格ミステリというのみならず、ジャズマンの探偵が音楽絡みの日常の謎を解くという、他に類例の無い作品でもある。またほんの一瞬だけ話題をさらった年間ベスト短編集「本格ミステリ06」に「砕け散る褐色」が収録されたため、覚えている読者もいるだろう。自分も読んだし面白かったと感想を書いていたが、内容は完全に忘れていた。

なにぶんジャズ知識が皆無のため、登場人物や曲名のどれがフィクションなのかすらわからないが、読むにあたって支障はない。作者おすすめの曲が豊富に紹介されているので、ジャズ好きならより楽しめるだろう。
ミステリとしての出来は普通に良いが、謎やトリックは一捻りくらいで終わっているため、出題と同時に答えがわかることもしばしば。
永見緋太郎のキャラも、メジャー曲や有名奏者を全然知らない一方でマイナー曲・奏者は知っていることが多いのも謎だが、細かいあげつらいだろう。
ジャズ好きなら迷わず、本格好きなら気軽に珍しいジャンルに触れられる佳作である。


21.5.11
評価:★★★ 6
コメント (2)