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非ミステリ感想-『屍者の帝国』伊藤計劃・円城塔

2021年05月21日 | ミステリ感想
~あらすじ~
屍者を蘇らせ使役する技術が一般化した19世紀。
医学生のジョン・ワトソンは調査機関の依頼を受け、屍者の帝国を築こうとしているというカラマーゾフを追いアフガニスタンへ渡る。

2012年このミス11位、文春4位、星雲賞、日本SF大賞特別賞、本屋大賞候補

~感想~
伊藤計劃がプロローグと草稿だけを遺して逝去後、同期デビューの芥川賞作家・円城塔が引き継いで完成させた異例の共著。
数多くの賞を射止め、ミステリ界でもこのミス・文春で上位ランクインし、アニメ映画化も果たした。
ワトソンやカラマーゾフの兄弟ら創作のキャラや、実在する歴史上の人物が数多く登場し、しかも史実に沿った物語が描かれ、いわゆる特殊設定ミステリの要素もあるという、今なら青崎有吾「アンデッドガール・マーダーファルス」を思い出させる、どう考えても自分好みの作品だが、作者の文章との相性が極めて悪く、1ミリも楽しむことができなかった。(※なおプロローグは問題なく読めたので主因は円城塔にあると思う)

あえて口の悪い言葉を使うと「スカしてやがる文章」がとにかく鼻についた。
たとえば「脳に記された真理(emeth)の語から先頭のeが拭われ、死(meth)へと書き換えられるまで、屍兵はただ闇雲に命令を遂行し続ける」のような、ゴーレムの倒し方をゴーレムという単語を使わずに用いる、教養のない読者を度外視するような比喩(共通点の多い屍者とゴーレムを並べてるのはわかるしゴーレムの倒し方も知ってるがとにかく鼻につく)や、ほんの10ページ足らずの間に「シラノ・ド・ベルジュラックが『月世界旅行記』の中で月の民衆に与えた身振り言語」だの「サウルが千を打つなら、ダビデは万を打つと言うだけ」だの「オノレ・フラゴナールの皮剥ぎ解剖学教本よろしく」だの聞いたこともない作家・学者の著作からの引用が次から次へと現れ、何度も何度も「誰の何!?」とやけくそでツッコみ続けた。
素朴な疑問なのだがこういう衒学の雨あられを楽しめる層は、「知らない引用だ!調べよう!」なのか「んほぉ~この衒学たまんねえ~」なのか、ただの雰囲気作りとして読み流しているのかどれなのだろう。

相性の悪い文章の韜晦や晦渋、ほのめかしはマジで意味が通じず、わけがわからないまま読み進め、数十ページ経ってようやく内容を理解することもしばしばで、終盤で明かされるある人物の正体も「そもそもこいつがこの時代の人物だと知らない」ため効果は無かった。
自分の思い描く「純文学の嫌いなところ」がそのまま具現化されたような悪夢の文章で、とにかく読むのが苦痛だった。個人的には人生で最悪の一冊に数えられる。
もちろんそれは全責任が自分にあり、これだけ多大な評価を集めているのだから、大半の読者にとっては面白い作品なのだろう。この文章を受け入れられ、物語を十全に楽しめる教養があれば、きっと面白いのだろうとも想像がつく。
なのでこんな罵詈雑言は気にせず、興味があればぜひ読んでいただきたい。

……それにしても、これが楽しめないとなると、ミステリ畑にも大評判が届いていた「三体」も興味があったが高確率で楽しめないんだろうなあ。


21.5.20
評価:なし 0
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