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ミステリ感想-『アルバトロスは羽ばたかない』七河迦南

2010年12月03日 | ミステリ感想
~あらすじ~
児童養護施設・七海学園に勤めて三年目の保育士・北沢春菜は、多忙な仕事に追われながらも、学園の日常に起きる不可思議な事件の解明に励んでいる。そんな慌ただしい日々に、学園の少年少女が通う高校の文化祭の日に起きた、校舎屋上からの転落事件が影を落とす。警察の見解通り、これは単なる「不慮の事故」なのか?
だが、この件に先立つ春から晩秋にかけて春菜が奔走した、学園の子どもたちに関わる四つの事件に、意外な真相に繋がる重要な手掛かりが隠されていた。
※コピペ


~感想~
今年度一位確定。
真相が明かされた瞬間、頭が真っ白になった。
正直、七河迦南をなめていた。3年前に鮎川賞を取った前作『七つの海を照らす星』は、児童養護施設という一風変わった舞台で起こる日常の謎に、王道トリックを溶けこませるという意欲作で、トリックの大胆さと、舞台設定を活かした奥深い物語、連作短編集としての仕掛けの巧みさに魅せられ、個人的に大好きな作家になりそうだという感触は持ったが……。
受賞後、3年間音沙汰がなく、ようやく出た第二作。まさかここまで化けるとは思わなかった。
トリックの強烈さもさることながら、それによって見ていた世界が逆転し、物語自体の意味が裏返るのが素晴らしい。トリックはただ読者を驚かせるためだけに仕掛けられたわけではないのだ。
児童養護施設という舞台が織り成す、ただ優しいだけではない物語は「日常の謎といえば癒し系でしょ?」と勘違いした我々に叩きつけるアンチテーゼだ。
季節ごとに起きる4つの事件が見せる連関は、昨今よく見られる、メンツが多少同じで時系列が並んでいれば連作短編集だというぬるい風潮に浴びせた容赦ない挑発だ。
アルバトロスは羽ばたかない。だが、七河迦南は飛翔した。

でもどーせ売れてないし賞レースには一切引っかからないんだろな~~。
なお必ず先に前作『七つの海を照らす星』を読むべし。


10.12.3
評価:★★★★★ 10
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