~あらすじ~
一作限りで筆を折った作家の大川戸孝平は、車がぬかるみにはまり山中の屋敷に助けを求める。
そこには二日前、長男を名乗る顔を包帯で覆い声の潰れた男が八年ぶりに帰宅したばかりだったが、さらにもう一人やはり包帯で顔を覆われた長男を名乗る男が現れたところで……。
「誰が殺したか? いかに殺したか? 俺が考えるに、問題はそんなところにはない。俺がお前に委ねたい設問はただこれひとつさ。
その屋敷でいったい何が起ったのか?」
2005年本ミス10位
~感想~
設定だけでもう面白い。
期待されるミイラ男同士の対決は意外にあっさり幕が引かれるが、本番はその後から。
一連の事件は大川戸の残した手記という作中作の形式で描かれ、動機も真相も表層では全てつじつまが合っているものの、その外側ではまだ説明の付けられていない疑問点が残され、途中に挟まれるいくつかの断章とも矛盾してしまう。
それらをまとめて解決する真相は、豪快なものの他に類例がいくつかあるトリックで、正直に言えば「またこれか」と思ってしまったのだが、本作の方が先であり、後発の某作よりも動機やこのトリックを隠蔽する手腕では優れていると言えよう。
余談だがその某作がいまいち好事家の間でさほど評価されなかったのは「模造殺人事件」が念頭にあったからだとようやく理解できた。解決シーンこそ明快かつ衝撃的で某作に軍配が上がるが、トリック丸かぶりで処理の上手さも劣ると来ては、そりゃ微妙な反応になるだろう。自分もこれを読んでしまうと某作の評価を1~2段階は下げたくもなる。作者は読んでなかったんだろうなあ。
本作の話に戻ると、真相は複雑な筋で偶然が重なりすぎたきらいもあるが、終わってみれば全てが腑に落ち、なんとも言えない苦い読後感を残す結末も良い。
またあからさまにスケキヨさんで言うまでもなく横溝リスペクトにもあふれているらしく、人物描写こそ無味乾燥なものの、隙あらば叙情的な雰囲気を醸し出そうとする筆は多少読者を選ぶかも知れないが、魅力的な設定に見合った豪快なトリックと、独特の空気感が両立した、絶版なのが実に惜しい隠れた良作である。
18.3.14
評価:★★★☆ 7
一作限りで筆を折った作家の大川戸孝平は、車がぬかるみにはまり山中の屋敷に助けを求める。
そこには二日前、長男を名乗る顔を包帯で覆い声の潰れた男が八年ぶりに帰宅したばかりだったが、さらにもう一人やはり包帯で顔を覆われた長男を名乗る男が現れたところで……。
「誰が殺したか? いかに殺したか? 俺が考えるに、問題はそんなところにはない。俺がお前に委ねたい設問はただこれひとつさ。
その屋敷でいったい何が起ったのか?」
2005年本ミス10位
~感想~
設定だけでもう面白い。
期待されるミイラ男同士の対決は意外にあっさり幕が引かれるが、本番はその後から。
一連の事件は大川戸の残した手記という作中作の形式で描かれ、動機も真相も表層では全てつじつまが合っているものの、その外側ではまだ説明の付けられていない疑問点が残され、途中に挟まれるいくつかの断章とも矛盾してしまう。
それらをまとめて解決する真相は、豪快なものの他に類例がいくつかあるトリックで、正直に言えば「またこれか」と思ってしまったのだが、本作の方が先であり、後発の某作よりも動機やこのトリックを隠蔽する手腕では優れていると言えよう。
余談だがその某作がいまいち好事家の間でさほど評価されなかったのは「模造殺人事件」が念頭にあったからだとようやく理解できた。解決シーンこそ明快かつ衝撃的で某作に軍配が上がるが、トリック丸かぶりで処理の上手さも劣ると来ては、そりゃ微妙な反応になるだろう。自分もこれを読んでしまうと某作の評価を1~2段階は下げたくもなる。作者は読んでなかったんだろうなあ。
本作の話に戻ると、真相は複雑な筋で偶然が重なりすぎたきらいもあるが、終わってみれば全てが腑に落ち、なんとも言えない苦い読後感を残す結末も良い。
またあからさまにスケキヨさんで言うまでもなく横溝リスペクトにもあふれているらしく、人物描写こそ無味乾燥なものの、隙あらば叙情的な雰囲気を醸し出そうとする筆は多少読者を選ぶかも知れないが、魅力的な設定に見合った豪快なトリックと、独特の空気感が両立した、絶版なのが実に惜しい隠れた良作である。
18.3.14
評価:★★★☆ 7