先の投稿で、東条の自殺の際に使用した拳銃について、孫の由
布子さんが雑誌WILLの対談で述べたことを信用した。扱いな
れない大型拳銃を使用したために失敗したという「言い訳」を
紹介したが、この事実がすこしあやしくなった。
雑誌「諸君」9月号に石原慎太郎氏と佐々淳行氏の対談がある。
米軍憲兵が、「22口径で胸を撃つなんて」と笑ったという
(諸君9月号33ページ)。22口径の拳銃というのは玩具
みたいな、もっぱら婦人の護身用拳銃である。鳩も驚かない
豆鉄砲である。アメリカでは田舎の縁日の射的場に置いてあ
るやつだ。
22口径は頭部を撃っても一発で死ぬことは難しい。まして胸
部を一発撃っただけで死ねるのは僥倖を待つよりほかはない。
軍人なら常識だろう。まして、なぜ東条のような職業軍人が将
校用の拳銃ではなくて「売春婦の拳銃」と言われる玩具のよう
なピストルを入手用意していたのか、グロテスクである。MP
が侮蔑して笑うのは当然である。
もっとも、急所を外さずに3,4発撃ちこめば死ねるかもしれ
ない。安達中将の例ではないが、錆びたカミソリでも覚悟さえ
あれば立派に自決できるから。終戦直後に自決した軍人は沢山
いるが、そのなかで本土防衛総軍司令官陸軍元帥杉山元は自分
の胸部に四発拳銃を撃ち込んで自決している。彼の場合、22
口径ということは無いだろう。将校用の拳銃、38口径か45
口径を使用したものだろう。年齢も東条とほぼおなじ、大口径
の拳銃を至近距離から発射すれば、受ける衝撃はすさまじいも
のがある。それを自分で四発撃ち込むというのは相当の覚悟が
必要である。杉山夫人は夫の死を確認後自刃している。
もっとも*** 記憶は確かではないが、チャンドラーの小説
で女ながら22口径を二発心臓に撃ち込んで自殺する結末を持
つものがあった、チャンドラーの文章は「奇跡的」という言葉
を使っていたように記憶する。
東条は駆けつけたMPにその場で色々ややこしいことを言って
自己弁護をしている(当時の報道によれば)。したがって意識
はしっかりしていて本当に死ぬつもりなら二弾、三弾は自分に
撃ち込める気力は残っていたことがうかがえる。自殺に失敗し
ておきながら敵兵にくどくど自殺を正当化するような言辞を弄
するのは、やはり健全な倫理感覚を持っていたとは思えない。
大体男は弁解しないものだ。
それにしても、この情報ギャップはどこで発生したのか。由布
子さんは東条が処刑直前に会った教戒師に東条が言い残した言
葉として家族に伝えられたと言っている(教戒師はとっくの昔
に死んでいて確認できない)。米軍憲兵の誤認か、東条が嘘の
言い訳を言い残したのか、お孫さんが作り上げたのか。