東方のあけぼの

政治、経済、外交、社会現象に付いての観察

映画「終戦のエンペラー」

2013-08-10 08:46:36 | 国際・政治
この間表記の映画を見た。

偏向度: 外国人の作った映画としては許容範囲といえる。監督は英国人だという。アメリカ人監督ではとてもああは出来まい。戦争に負けるたびに国王が絞首刑になる話なんてイギリス人が一方的に描くのには抵抗があるだろう。しかも、それが事後法で世界史上一度も例がない裁判となれば、リンチ当たり前のアメリカ西部の水呑百姓ならともかく、イギリス人には出来ないだろう。

滑稽度: 外国人が日本を描くと、我々からみて、滑稽なものが多いが、其の点はあまりない。日本人監修者がしっかりしていたのではないか。タイトルバックでは気がつかなかったが。

真実度: 映画という作り物だからフィクション、フリルはやむを得ないが、内外で公表されている『事実』と明らかに齟齬するところはないようだ。

天皇の終戦の詔勅の録音版の争奪戦は派手なドンパチが描かれているが、巷間伝わる事実を大分派手にしているようだ。
映画だからね。

GHQ(連合国総司令部)のあった日比谷の第一生命館が頻繁に出てくる。この部分がモノクロなのもいいが、一回も都電が出てこない。これがためか、この場所がいかにも芝居の書き割りに見える。

わたしなんか、GHQというと都電の窓からよく見た者だからね。志村坂上から三田までいく都電だったかな。12番か、番号は忘れた。

都電の乗客はあの前を通る時に和田倉門のある皇居に頭を下げるものと、皇居に尻をむけてGHQのほうに頭をさげるものがいた。復員兵なんか、GHQのMPに最敬礼するものがいた。世相だったね。

わたしは分からなくなって、一緒にいた母に「どっちにお辞儀をしたらいいの」と聞いた。「どっちでもいいのよ、自分の思うようにしなさい」と母は回りをはばかるように云った。

とにかく、電車の中、道路、至る所にアメリカのスパイがいて、うっかりしたことは云えなかった。手紙は全部開封される。それも開封したことがはっきり分かるようにしてあった。蒸気をあてて奇麗に開封し、開封したことが分からないように元に戻すなんてことはしていない。恐怖心を日本人に与えるためだろう。

結局、母も私も皇居、GHQどちらにもお辞儀をしないうちに電車は日比谷を通り過ぎた。

天皇とマッカーサーとの会見も描かれている。永井荷風が断腸亭日乗で「天子蒙塵」と嘆いたが、これは適切な表現ではなかったな。むしろすすんで日本国民のために塵をかぶりに行かれたわけだ。左伝では、天子が変装して市中の雑踏塵埃の中を逃れる意味で正反対だ。しかし、出典に頼らなければ、天子が自分から敵国の一武将のところで出向いていくなど、まさに塵をかぶりに行くようなものだとも云える。荷風の嘆きも頷ける。