詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

アルメ時代29 春の歌

2020-01-24 14:36:30 | アルメ時代
29 春の歌



   1
欄干という音の美しさに負けて
また橋を渡っている
川の水は潮で甘くなっている
ぷっくらとふくれてけだるい
「結局はわからないんだ」

   2
「川の名前は言いたくない
音の組み合わせに
ひなびたひろがりがない」

   3
ひきずりこまれかけている

   4
猫を頼りに路地をまがる
自分に出会わなくてすむように
(何も言うな)

   5
陶器屋の前を通る
何に驚いたか
こらえきれずに陶器が落ちる
アスファルトの上で白い花になる

   6
鏡張りのビルがある
きみが通るとき教会の横顔をふいに映し出す
見えないはずのものが
視線をおしひろげる
「ここでまがれば
昔へいけるだろうか」

   7
(何も言うな)
(言ってしまえ)

   8
遠くがぼんやり光をためている
大通りとぶつかる場所だ
車が途切れ向こう側が見えることがある
「路地も幻想を見るだろうか」

   9
「意志が消える一瞬がある
魂が消える瞬間があるだろうか」

   10
ひきずりこまれかけている

   11
ふたたび角をまがる
雲の影がアスファルトの上に落ちて動いていく
ブロック塀にぶつかり垂直に立ち上がって
動いていく ふたたび

   12
私は私でありたくない
アスファルトの白でありたい
アスファルトの青でありたい
光や影や雨によってかわる濃淡でありたい

   13
ひきずりこまれかけている

   14
さらに角をまがる
煉瓦色の舗道を光がひいていく
砂浜から水がひくように
「金緑の砂の干潟よ」か

   15
ひきずりこまれるな

   16
小倉金栄堂で売れ残った本を開く
「太陽の沈んでいく速度ってかわるのかしら
冬の間はじれったいくらいに空をそめつづけていたのに
春が近づくとなんだか
すとんと落ちていく気がするわ」

   17
歩道橋から見えるのは
静かに折れている国道の角度
夕日は地平線に乗ったまま動かず
一日は終わる



(アルメ249 、1987年05月10日)


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