詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(24)

2018-03-08 10:58:24 | 詩集
谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(24)(創元社、2018年02月10日発行)

 「よろい戸の奥」。どこに音があり、どこに音楽があるか。

壊れかけたよろい戸の奥の暗がりに
煙草の煙が薄く流れて
そこにいるあの人

 とはじまり、最終連は

壊れかけたよろい戸の奥の暗がりに
衣ずれの音がかすかに聞こえて
そこにいるあの人
どうして恋が生まれるの
こんな時代に

 この最終連に「衣ずれの音」が出てくる。
 さて、この「音」を聞いている「私(書かれていない)」は、どこにいるのか。よろい戸の外にいるのか。たぶん、そうとらえるのが自然かもしれない。
 でも、「よろい戸の奥の暗がり」に「その人」と一緒にいるともとらえてみることができる。「いま/ここ」にいるのだけれど、それを離れた場所から「客観的(?)」にながめている。
 そうすると、「どうして恋が生まれるの?」は「あの人」への質問なのか、それとも自分自身への問いかけなのか、わからなくなる。
 「こんな時代」、恋なんかできるわけがない。でも、恋してしまう。なぜなんだろう。この疑問は他人に向けられるとき「批判(非難)」になるが、時分に向けるときは「批判(非難)」とは簡単に言いきれない。
 それこそ「どうして」としかいいようのない「何か」である。
 「わからない」ものに突き動かされて、「いま/ここ」に「ある」。たぶん、「本能」が「私」を突き動かすのである。
 この「本能」と「音楽」がどこかで通じている。
 というのは、強引な「読み方」。「誤読」になりきっていない。むりやり書いている感想、テストの回答欄に書いたことばみたい……。

 一休み。

 音楽は「音」と「音」との出会い。その「音」と「音」の間に「沈黙」がある。あるいは「背後」に。さらには、「音」が出会う瞬間に、それまで存在しなかった「沈黙」が生まれる。
 人と人は音楽の「音」のように出会うか。
 「私」と「あの人(あなた)」は、どう出会うか。
 それとは別に、人間には「私」が「私」と出会うという瞬間がある。「私はなぜ、こんなことをしているのだろう」。
 自問である。
 自問でも「ことば」は動く。「どうして恋が生まれるの/こんな時代に」と。けれど、その「ことば」は他人には聞こえない。自分にだけ聞こえる。
 自問の中には「声」と「沈黙」が同居している。
 これが「音楽」のあり方に似ているかもしれない。


*


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目次

小川三郎「沼に水草」2  岩木誠一郎『余白の夜』8
河邉由紀恵「島」13  タケイ・リエ「飯田橋から誘われる」18
マーティン・マクドナー監督「スリー・ビルボード」再考21  最果タヒ「東京タワー」25
樽井将太「亜体操卍」28  鈴木美紀子『風のアンダースタディ』32
長津功三良『日日平安』37  若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」40
草森紳一/嵩文彦共著『「明日の王」詩と評論』47  佐伯裕子の短歌54
石井遊佳「百年泥」64  及川俊哉『えみしのくにがたり』67
吉貝甚蔵「翻訳試論――漱石のモチーフによる嬉遊曲」72
西岡寿美子「ごあんない」76
     *
谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(上)83

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聴くと聞こえる: on Listening 1950-2017
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