詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

徳永孝「夏 沖縄」、池田清子「上手いとか下手だとか、好きだとか嫌いだとか」、青柳俊哉「水にうかぶ葉」

2021-08-28 20:26:16 | 現代詩講座

徳永孝「夏 沖縄」、池田清子「上手いとか下手だとか、好きだとか嫌いだとか」、青柳俊哉「水にうかぶ葉」(2021年08月02日、朝日カルチャーセンター福岡)

 受講生の作品。

夏 沖縄 徳永孝

深夜のTVの天気予報のBGM
沖縄の歌
tinktinkかな

翌朝久しぶりに
旅行の時買っていたCDを
聞いてみた

今すぐにでも飛んで行けたなら

空には夏の雲
太陽(ティーダ)照らすビーチで
伊禮俊一のライブが聞けたら最高だろうなあ

夜は民謡酒場で
島唄にひたるのもいい
みんなとエイサーをおどりたいなあ

でも夏になったら暑さにへたばって
冷房の効いた部屋に
閉じこもるかもしれないけどね

今は
夏への沖縄への
あこがれでいっぱい

 「いまはコロナ感染が拡大しているのでどこにも行けないが、沖縄が具体的にイメージでき、沖縄に行きたくなる」という受講生の声。作品は、夏になる前、五月に書いたもの、という。
 BGMから、沖縄の歌、伊禮俊一のライブ、民謡酒場(島歌)と音楽が自然につながっていく。
 三連目の独立した一行は、思いをそのまま書いたものだが、それが「空には夏の雲」と空想に結びついていくのが、さわやかな感じがする。技巧のない美しさ。
 六、七連目は、軽い感じで「本音」を語っている。それが四、五連目の沖縄の魅力を語ることばを支えている。

上手いとか下手だとか、好きだとか嫌いだとか  池田清子

「そこで走るのよ」と
仲間からのヤジ
「いつまでも初心者のような取り方をしない」と
監督からの叱咤
「肩を痛める投げ方をしている」と
審判の人は言う
一番近いのに
セカンドからファーストへのコントロールが悪い
ファーストが上手くなければ、知ーらない

努力は報われるというけれど
努力は報われない方が多いと思う
好きこそ物の上手なれというけれど
いくら好きでも上手くはなれない
下手の横好きというけれど
これは当たっている
下手だけれど大好きなのだ

というわけで
練習は好きだけれど、試合は好きではない
でも、人数がギリギリだと出るしかない

試合が始まると
流れるようなグラブさばき
取った後のシュッと投げるフォーム
バットの芯でとらえる技術
何てかっこいいんだ!
相手チームと顔見知りになる

そんな上手い人たちが
スーパーのレジを打っていたり
花屋さんで働いていたり
最初に会ったときは、「えっ」と笑い合った
ママさんソフトだねえ

 「ソフトという非日常と、スーパーの日常がリンクする。そこにちょっとした驚きがあって楽しい」「展開がおもしろいし、言い回しにリズムがあって楽しい。四連目の試合のシーンは飛躍があって、そのあと最終連で別の世界へ連れて行かれる」という声。
 池田は「何を言いたいのか、自分で何か決まらない。タイトルのよう」というけれど、そうではないと思う。
 詩は「結論」とか「内容」というよりも、ことばが生きて動いているかどうかが大事だと思う。「結論」が些細なことであったとしても、ことばが動いていれば、そのことばの動きの中に書いた人の「人間性」のようなものが見えてくる。
 一連目の「知ーらない」とか最終連の「えっ」ということばにも、池田の人柄のようなものが出ている。何よりも四連目の、自分よりも上手い人を「何てかっこいいんだ!」と感嘆するところがいい。そのあと、顔見知りになるというのもいいし、顔見知りになった人をスーパーや花屋で見かけ、これが「ママさんソフト」なのだと納得するところに不思議なユーモアがある。生きている喜びがある。

水にうかぶ葉  青柳俊哉

水面にうかんでいる
いま散ったばかりの 柔らかい一枚の葉 
葉の下の 朽ちていく水の時間と 
空中の 鳴りさざめいていた命の空間を
うすい身にうつし 支えている
生と死のはざまで揺れうごく 水のうえの葉かげと
葉の縁へながれ きえていく雲のかたちを
円形の身体にとかし つつみこんでいる
空のうえから水中へ 星や鳥や波に
ぐるりと取り巻かれてめぐる軌跡のつらなりに
意識のかすかな糸を通すように
うかぶ一枚の葉

 「一枚の葉から世界が広がっていく。その豊かさが、円形の身体にとかし つつみこんでいるという一行に集約されている」「一枚の葉と自分の意識の融合。一枚の葉が人生を象徴している」という声。
 私は五行目の「支えている」ということばに注目した。水面に浮かんだ一枚の葉は、物理的に言えば水に「支えられている」。しかし、青柳はこれを逆に見る。一枚の葉が世界を「支えている」。一枚の葉によって、世界のあり方が違ってきている。この「支える」を後半では「糸を通す」と言いなおしている。世界にあるものを、一本の糸でつなぐ。その「一本の糸」とは、ことばである。青柳がことばによって必要なものを集め、動かし、ことばの宇宙(意識の世界)を作り上げる。その中心が、この詩では「水にうかぶ葉」なのである。

 

 

 

 

 

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